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「ちょっと待って! 話せばわかるって! ね!?」
紅南の問いかけに対して、化物は応じる様子がない。次こそはと、紅南に連撃を試みる。
まだ状況を把握しきれない紅南は、雄叫びを上げて森の中を逃げ惑うほかなかった。
化物の追跡と攻撃を何とかかわしていると、気が付けば目の前に見知らぬ鳥居が立ちはだかる。
「ねぇ何!? これ何!?」
こんなものがここにあったの? そもそもここどこ? どこまで走ってきたの?
連続する予想外の出来事に、紅南は半ば無意識に質問を繰り返した。
もちろん応える声はない。後ろから音もなく追跡者が近づいてくるだけだ。
もう未開の地だろうが行くしかないと紅南が足を踏み出しかけたそのとき、ふと過去の記憶が頭をよぎる。
「あれ、もしかしてここ立ち入り禁止のとこ?」
思わず立ち止まる紅南。その背後に、いよいよ化物が迫る。
やばっ。気配を察して化物に向き直る紅南だが、もう遅い。
今背を向けて走り出す訳にはいかない。目を逸らすのはだめだ。
化物は紅南のすぐ目の前で止まり、様子を見ている。
身動きをとれなくなった紅南は、どうしたものかと使い慣れない頭を必死に働かせた。
どうしたものか、次も避けられるか、今さら話し合えたりはしないか。
頭がショートしてしまいそうになる中で、その脳は視界の隅にまた新たなものを知覚した。
青い物体。
決して鮮やかではない、そして自然には存在しない青。
さっきまではなかったはずだ。突如発生したか、あるいは背後から現れたのか。
――もう勘弁してよぉ
涙目になる紅南の隣で、青い色のそれは、もごもごとうごめく。
最初は間違って踏んでしまいそうな大きさだったのに、それは徐々に高くなって、最終的には紅南を少し見下ろすくらいに大きくなった。
紅南は警戒を強めたが、特に何をされるわけでもない。紅南にも化物にも干渉せず、紅南の隣にフラリとそびえ立っている。
紅南は、青の中に一瞬暖色が見えることに気が付いた。
あれは、肌色。
――人間?
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