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少年に視線を戻した紅南は、彼の手元を見て質問した。
「ところでさっきから思ってたんだけどさ、その手に持ってるの何?」
紅南が指差したのは、少年の手にある、筒のような物体だ。巻物のようにも見えるが、紅南は実物を見たことがないので判断できなかった。
少年は簡単にそれを観察して、紅南に向き直る。
「わからない」
「借りてもいい?」
紅南のお願いに、少年は黙って応じた。
それを受け取った紅南は広げたり振り回したりしてみる。
しばらくの間そうしていたが、どうやら本当に巻物らしいということしかわからない。
「わかんないね」
「そう言ったでしょ」
紅南は巻物を透かしてみた。めぼしい発見はない。
もう少し強い光が差し込むところはないかと、紅南は上を見上げたまま数歩歩いた。
少年が注意を促そうとした次の瞬間には、彼の視界から消える。
何かに滑って、勢いよく転んでしまった。
「え!?」
少年の驚きは、紅南が転んだことに対してではない。手くらい貸してあげようかと踏み出しかけた足は、途中で止まる。
肌を刺す寒さが、息苦しい暑さに変わる。落葉が燃えて、黒い破片が宙を舞っている。
今度は、火だ。
辺りの森がごうごうと燃えている。
「何!?」
少年は、水を使って自身に飛んでくる火の粉を防いだ。確かにこの水は僕が生み出しているんだな、なんて、呑気に考えている場合ではない。
火の勢いはますます強くなる。少年は一歩退いた。このままでは一帯が炭になってしまいそうだ。
さっきの水球の比ではない。尋常ではない大きさの炎が一体を覆う。
炎の向こうにいる紅南に視線を移して、少年は異変に気が付いた。
「ねぇ、君、その手に持ってるの、何!?」
少年は紅南に叫んだ。彼女の手には、少年から借りた巻物と、もうひとつ違う色の巻物。
紅南は首をかしげながらそれを凝視した。
「この火って、君が出してるんじゃないの!」
紅南は少年を怪訝そうな顔で見つめ返した。
そんなわけないだろうという表情で静止して数秒。紅南はポンと手を叩く。
直後、勢いよく広がっていた炎は、すべて消え去った。真っ黒になってしまった木が弱々しく立ち並び、空気は生暖かさを保っている。
「わかった!」
紅南は広げた巻物を少年に返して、状況を呑み込めない少年に提案する。
「下で色々説明しよっか」
下に私の家があるの。ずっとここにいるわけにもいかないしね。
そう続ける彼女に、少年は反論するだけの論拠を持っていない。
2人は黒くなった森を後にし、山を下っていった。
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