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十四話-夜
「じゃあ俺は帰ろうかな」
楽多はそう言って、2人と交互に目を合わせた。紅南と少年――もとい、空も互いに目を合わせて、暗に楽多に説明を求める。
「家族と連絡がつかなくてさ――大丈夫だとは思うけど、しばらく帰れてないし。そろそろ顔も見たいじゃん?」
何でもないような口ぶりで、早口になるのを抑えることはできず、それでも楽多は気丈に笑ってみせた。
半紙を手渡された空が道を譲ると、突き動かされるように小走りで部屋の外まで駆けていく。
「じゃあ、これからよろしく、空!」
閉じかけのふすまから顔を覗かせて、楽多は最後に歯を見せた。今後の仲を約束する2度目のその言葉は別れの言葉として、返答がないままに捨て置かれる。
「……よろしく」
一拍遅れて空の口から出た言葉は、障子に跳ね返されてどこにも届きはしなかった。部屋のずっと遠くでしている音が、音のない部屋に響く。
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