十四話-夜

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 突き返すこともできず受け取ってしまった命名紙を持て余して、空は部屋の暖かいところに戻っていった。紅南は興味深そうに半紙を覗き込むが、空が顔を向けてきたのでとっさに目をそらす。  空は紅南とちょうど話しかけづらいくらいの距離をとって、目宮さんを見つめることにした。紅南も目宮さんの方に顔を向けながら時折横目で空の様子をうかがっている。  停滞した空気はさっきとは違う意味で、そのものの重みで歪んでしまいそうである。  薄暗くなった部屋で黙っていると、世界に自分と自分しかいないような気分になる。空はまだ自分の周囲に歪みが残っているような感覚に襲われて、何もないところを手で払った。 ――居場所を与えてもよい  大宮仁志の言葉が今さら空の頭の中を巡る。 ――よろしくな! 空!  命名紙を静かに横に置いて、息をつく。警戒の棘が煙となって闇になっていく。  沈黙が続くほど、空の意識は意思と関係なく深いところに追いやられていった。
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