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「いいの?」
幽霊でも見るような目で問う紅南は、今すぐに部屋を飛び出すことはしなかった。空はあらぬ方向を向いたまま返事をしない。自分でも驚いたように目を見開くも、それは紅南には見えていない。
紅南は気が急いて、早急な返事を求める。
「ねぇ」
「……もういいから」
紅南と目を合わせないまま、空が返答する。「今だけは」というなけなしの抵抗が小さく付け足された。
「本当にいいの? 本当にいいんだね?」
「いいってば。しつこいな」
「でも」
「君が一人になって何をしようが、僕に害がなければいい。君のことは保留にするって話だったし。それが延長されるだけ。それに、僕に彼らを追う義理はない。どうなっても関係ない。これで納得する?」
紅南は釈然としない表情だった。肯定の言葉が得られず、空は少し紅南の方に顔を向ける。
「そんなに監視されたい? 何か証拠づくりでもしたいの?」
「そんなんじゃないけど……。ちょっとびっくりして」
「じゃあ早く行きなよ」
「……行ってほしいの? そんなにここに残りたいの? 別に、悪いってことじゃないんだけど、ちょっとびっくりして」
「それは――」
空の返答が止んだ。動きを止めて何もない地面をただ見つめる。灰色の景色がストーブの熱で揺れて秒針の音を溶かしていく。
「わざわざ僕が危険なところに繰り出すメリットはない――」
それらしい理由を述べかけて、空はまた押し黙った。紅南は怪訝な顔をしながらも確実に扉へと近づいて行く。
「じゃあ、行ってくるね? 目宮さんのこと、よろしくね」
紅南の最終確認に、空は一瞬考えて、一度だけうなずいた。
それを合図に紅南は外へ出た。空が頭を動かした頃には冷気のほかに痕跡は残っておらず、数秒後には家の外で物音がしていた。
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