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時は遡り、場面は2人と分かれてからの楽多に移る。
彼は一人になって、笑顔を作ることができなくなっていた。
もちろん、空がちゃんと仲間として受け入れられたのは嬉しい。
紅南と仲直りした様子なのも喜ばしい限りだ。
しかし家族のことが気がかりで、本当はほんの少し気を緩めるごとに末梢が冷える感覚に苛まれていた。
うまく笑えていただろうか。空元気になっていなかっただろうか。心配をかけてやいないだろうか。
楽多は冷たい息を吐き出しながら、過去の自分の言動を振り返る。
巻物から授かる力を利用して、一目散に家に向かいながら自分をなだめ続けた。
彼は人に心配をかけるのはあまり好きではなかった。
一方で、他人を気にかけるのは得意、というより癖のようなもので、いつも誰かを気にかけていた。
一番は家族で、次に村人全員だったり、仁奈だったり、あるときは空だったり。誰かを守るべき立場に置くことで、強くいられた。
それが今は、守れなかったという虚無感が結果を見る前に襲ってくる。
――こういうときの悪い予感は当たるもので。
冷気とともに鼻を刺すのは、鉄の匂い。
楽多が鍵を持たず外出したためか、はたまた慣れのせいか、この急事にも関わらず玄関の鍵はかかっていなかった。
玄関の扉を開けても一見異常はなかった。ただ、明かりが一切消えていてやけに静かだった。
現実逃避したがる脳は、居間に向かいながら強まる匂いで、ようやく現実を受け止める。
それでも心は理解しない。
居間の扉を開けて、ほとんど原型をなくして床に広がる4人の影を見ても、心では理解できなかった。
立ち尽くして、ようやく湧いてくるのは自己嫌悪ではない。
楽多自身も知らない黒い感情が、心から出てきて体中に渦巻いていく。
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