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「仁奈のことは、待ってるのが一番だと思うの。きっとそろそろ帰ってくるよ」
「そう。僕は別にどっちでもいい」
「もうちょっと待って、戻ってこなかったら迎えにいこ」
「戻ってこなかったら諦めるのが賢いと思うけどね」
足並みの揃わない会話を続けながら、2人は再び屋根の上に登って、人影が現れるのを待ち続けた。
大宮家の敷地自体は大きいので苦なく視認できるが、敷地内の具体的な状況となると、障害物が多くて屋根に登っても満足に確認することができない。紅南はヤキモキする気持ちを、小さな両の握りこぶしで押さえ込む。
見てわからないならやはり迎えに行くべきかという気持ちはあれど、目宮さんを置いてはおけない現状と、下手に動かない方がいいという消極的な生存本能が、足を動かしてくれない。
この数分で日光は随分と強くなり、空気中の見えない氷がギラギラと瞳を刺す。零に近い気温ながら、紅南は背後に熱風らしき圧さえ感じていた。
かなり日が昇ってきたか。さすがに、そろそろ行った方がいいか。
そう紅南が判断したころだった。
「……ちょっと」
空の声が、紅南を呼び止める。空の視線は、紅南とは違う方向に向いている。
そうして紅南は、背後の熱波が異常なものであるとようやく認識した。
「燃えてる」
空の言葉が、状況のすべてである。
村のど真ん中で、煌々と炎が燃え上がっている。「見ればわかる」と、いつぞやに受けた返答を使いたくなるほどに。
紅南は反射的にその場所を確認した。周囲の家の配置だったり、今いる所からの距離だったり。
「……楽多の家、だ」
紅南が呟く。
2人は炎を前に呆然と立ちすくんだ。
怪物のような火炎と、パチパチという音と、季節にそぐわない温もりと――、タンパク質の焦げる微かな匂いとが、五感に異常な刺激を与える。
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