十七話-大宮家

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十七話-大宮家

「ようやく2人になれましたね、紅南」  紅南の視野を遮って、アスカは笑った。紅南の不安げな面持ちはそのままアスカに向けられる。 「彼らのことは置いておいて、私とお話ししましょう」 「……『置いておいて』?」 「おや、怒らないでください」  アスカが一層微笑むのと対照的に、紅南は眉を寄せた。  内心「怒ってるわけじゃないけど」とぼやき、紅南はアスカの背後で起こっている出来事を見ようとする。大きな体越しに見えるものはほとんどなく、混沌がかすかに聞こえるだけだ。  アスカは丁寧に紅南の目の前に体重移動する。右に左に動きながら、咎めるような視線をものともせず躍る声で話を持ちかける。 「行きたいのなら行ってもいいのですよ? ただ、おすすめはしませんけどねぇ」 「ここを離れたら、目宮さんが一人になっちゃうから。行けないの」 「ふむ? まぁどちらでも構いません。ただ、ここに残るなら私とお話ししませんか?」  申し訳なさなど微塵もなく、アスカは屈託のない笑みを向ける。紅南は覗き込むのを諦めてアスカと対峙することにした。真剣な眼差しを目の前の赤眼に向ける。 「お話しする気分にはなれないの」 「そう怒らずに。何でもお答えいたしますよ」 「怒るとかじゃ……」  絶えず口角の上がった顔を見て、紅南は視線をそらした。大きく深呼吸してまた顔を上げても、目の笑っていない彼の笑顔は変わらない。 「……じゃあ、楽多が無事か教えて」 「それはあの少年が確認していますから、いいじゃありませんか。もっと有意義に時間を使いましょう!」  紅南の不審がる目つきは、アスカにはまったく効果がなかった。ニコニコと、彼は語らいが開始されるのを待っている。せめてもの反抗として、紅南は無言に徹することにした。
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