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〇話-邂逅
人口500人程度のごく小さな村。
村を囲む山々は、冬に入って葉の一部を落とし、その無数の細い枝を天高く伸ばす。
まだ日が上がりきっていない冬の外気で鼻先は赤くなる。
色のない無機質な世界の中に、住民の一人、神下紅南がたたずんでいた。
その視線の先には見知らぬ人間――、否、化物。
「なんで?」
それが、紅南が最初に発した言葉だった。
化物は紅南を見て少し考え込んだようだった。少し考えて、軽く微笑み、紅南に近づく。
「んんん? お話があるのかなぁ」
どうやらそうではないらしいことをわかっていながら、紅南はケラケラと笑ってみせた。さすがにまずそうだなぁと危機感を抱き、軽く後ずさりする。
しかし化物はそんな紅南を逃がしはしない。落葉で足場の悪い地面を軽く蹴った化物は、一瞬にして紅南の目の前に現れた。
ヒュン
軽い音とともに、紅南の毛先が舞い散る。
化物がその鋭い爪で、空を切ったのである。
紅南が避けなければ、きっと紅南の顔、いや、首を、掻き切っていただろう。
紅南はしばしケラケラと笑い続けた。状況の把握に時間を要したためだ。しばしの後に、
「なんで攻撃するの!?」
と、精一杯の大声を上げる。
化物はと言えば、紅南に避けられた手をまじまじと見つめていた。紅南の叫びには気が付いていないようでさえある。
だがそれも一瞬のことで、すぐに紅南に向き直った。
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