何かがいる。

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 一方、この頃になると、大学にも慣れて、仲のいい友達も何人かできたんですけどね。その仲良しグループの中に一人、霊感が強くて、生きてる人間と同じように霊が見えるっていう女の子がいたんです。  これはちょうどいい。いったいあれはなんなのか? ちょっとその子に見てもらおう……。  そう考えたN君は、他の友人達と一緒にその子を自分のアパートへ遊びに来るよう誘ったんです。その子だけ誘ったんじゃ、新手のナンパかと誤解されちゃうかもしれませんからね。  もちろん、事情を話して断られたら困りますんで、あの気配のことは内緒にして。  すると、友人達も特に断る理由もないですから、ああ、いいよ。じゃ、遊びに行かせてもらうよ…と二つ返事で彼の部屋へ来たんですけどね。  若い学生達ですから、みんなでお好み焼きを作ってわいわい食べたりなんかして、一見、特に変わりもなく楽しんでいたんですが……N君がこっそりその霊感のある女の子の様子を覗っていると、やっぱりどうも変なんだ。  霊感があるとはいっても、いつもはそういうタイプとは思えないくらい、明るく活発な女の子なんですけどね。その日に限ってやけに静かなんです。その上、目だけをキョロキョロさせて、何かを警戒しているような、そんな感じなんですよ。  そこで帰り際に、他のみんなには聞こえないよう、そっと彼女に訊いてみたんだそうです。  ねえ、もしかして、何か見えた?  すると、彼女は驚きもせずにうん…と頷いたんですが、なんだか釈然としないといった感じなんです。  そこでN君は、ねえ、何が見えたの? と重ねて尋ねてみたんですが、彼女はなぜか、うーん…と考え込んでしまったんですね。  ねえ、いったいあれはなんなの? 俺には黒い靄みたいなものに見えたけど……。  もう一度、N君はその子に訊いてみたんですが、彼女はやっぱり首を傾げながら、うーん…何かいるのは確かなんだけどね、あたしにもなんだかよくわからないんだよ。いつもはもっとはっきり見えるんだけど、人間の姿なのかどうなのかもよくわからないんだ。こんなの初めてだよ…と、そう不思議そうに答えるんです。  その子に見てもらえば、解決しないにしても何かわかるんじゃないかなあ…と期待していたN君は、内心、ひどくがっかりするとともに、正体のわからないその何か(・・)をよりいっそう不気味に感じるようになってしまいました。
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