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そうして、毎日、謎の気配に怯えながらも、なんとか気にしないフリをして悶々としばらく過ごしていたんですが、そんなある日のこと。
彼の部屋は一階なんですが、大学に行こうと部屋を出た時、二階の住人が引っ越し作業をしているのに出くわしたんですね。
その人は一人暮らしのOLさんだったんですが、N君と同じ時期に引っ越して来たんで、顔を合わせると親しく挨拶するくらいの仲にはなっていたんですね。
そのOLさんが業者のトラックへ荷物を積み込むのに立ち会っていたので、いつものように声をかけて、こんにちはぁ。ああ、お引っ越しなさるんですねえ …と挨拶したんです。
でも、よく考えたら変なんですよね。転勤シーズンでもないですし、まだ入居して間もないのに、なぜこんな時期に突然引っ越すことになったのか……あれ、もしかして、彼女も自分と同じなんじゃないかな? と、ふと思ったんだそうです。
そこで、N君は背後のアパートの方をチラっと目で指し示すようにしてから、あの…もしかして、何かありました? と訊いてみたんですね。
するとOLさんは、えぇ、まあ…と苦笑いを浮かべながら曖昧に答えるんです。
それを見て、ああ、やっぱりだ…と彼は確信したそうです。
いや、はっきりと彼女がそう言ったわけじゃないんで、彼の思い違いかもしれませんがね。でも、仕事の関係とかなら、はっきりそう言うでしょうし、もっとプライベートの理由だったのなら、別になんでもないですって誤魔化すような気がしますよね。
それが、否定もせずに肯定したっていうことは、そう考える方が自然に思えるんです。
これで、ますます確信に変わったN君ですが、OLさんの一件で新たにあることにも気づきました。
よく聞くいわゆる〝事故物件〟の話とかだと、その体験者の借りた部屋だけで霊現象が起こるものですが、ここの場合、そうじゃないんだ。
二階の彼女の部屋でもってことは、たぶんこの二部屋だけじゃないですよね? おそらくこのアパート全体にあの不気味な気配の主は現れているんですよ!
それに、ひょっとしたら部屋ではなく自分自身に取り憑いてるんじゃないか? という疑いもわずかに持っていたりもしたんですが、これはもう明らかにアパートの方に原因がある代物だ。
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