薔薇組の騎士

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薔薇組の騎士

赤い絨毯が敷かれた西洋の城を連想させる寮は高尚な気品を放っており、自然と蛍たちの背筋がピシッと白いシャツの皺を伸ばす。 「すごい、ホーリーホックって飾れるんだ……」 「英名で呼ぶ人は初めてだよ」 玄関ホールには薔薇組シンボルの水葵が天井に向かって飾られていたが蛍は斜め上な反応を示して、それに優しくツッコミをいれたのは新たに兄弟制度(フラーテル)として組まれた本科生1年の梅原健次郎(うめはら けんじろう)だった。 他の生徒たちがフラーテルと会話しながら談話室に向かう。 蛍の足は気品を放つ内装に怖気付いて重く床にくっついている。 「ぼくらも行かないと組長達に目をつけられたら大変だ。」 「……そうですよね。」 ゆっくりと耳元で呟かれた声に観念して今にも震えそうな足に力を込めて歩き出した。何も言わなくなった梅原を横目で見上げるとばっちり目が合った。 蛍は念願の薔薇組に配属されたにも関わらず、周りの上級生が放つ存在感は新入生の証である白シャツの場違いな自分に気づいてしまい、虚な瞳が助けを求めるでもなく単に目の前の現実を見逃さぬように四方八方に忙しなく動いている。 「そんな強張らなくても取って食いやしないよ」 梅原は艶のある黒い髪と切れ長で凛々しい目つきは威圧的な印象が強い。声は柔らかい低音で耳心地が良く、蛍は少し肩の力を抜いた。 全員が席についたのを見届けて前方の上級生が1人、中央に立ち、一段高い台に乗って全体を見渡す。 麦色の髪は結っていても腰まで長く、口紅が薄く塗られている容貌に蛍の薔薇組マニア精神が瞬時に副組長の灰原星薙(はいばら せな)だと把握した。 「皆さん、ようこそ薔薇組へ! 副組長をやらせてもらってます灰原星薙と申しますっ!」 明るい声に自然と拍手が送られて灰原は満足げに腰を折って壇上を降りる 「今から兄弟(フラーテル)の兄様から制服が支給されます。三日後の月曜日から着用してくださいね!」 制服というワードに蛍の胸が熱くなる。横を見れば梅原が前方から持ってきた紙袋を掲げていた。 「着方は習ったと思うけど、くれぐれも予科生の間は着崩したりしないように気をつけてね!」 梅原から紙袋を受け取ると中を覗いて、薔薇と水葵の紋章付きの生徒手帳を取り出して見る。 「一応、薔薇組の生徒手帳は校則と薔薇組の規則が記されてるから早めに覚えてくれ。」 子供に言い聞かせるようなハイトーンの灰原と対照的に冷静に話す梅原に蛍は頬を緩めた。
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