通販エキスパート検定

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 おばあちゃんが呼んだ「お父さん」は、いかにもこの道を練したおじいちゃんだった。素敵な旦那さんだろうなと思える朗らかさが滲んでいた。  おばあちゃんと同じように、のそのそと店先へ出てきてくれた。 「早速来てくれたんじゃね。こんな若い子に来てもらえたら嬉しいなぁ。ほれ、パッと花が咲くようじゃの」  おじいちゃんはおばあちゃんと顔を見合わせて笑った。 「いえいえ、そんな……」  面接なんか全くしていないし、鞄から履歴書すら出していないのに、バイトするかどうかは既にあたしに委ねられているようだった。おじいちゃんとおばあちゃんがニコニコとあたしを見ている。 「……あ、あの、とりあえず履歴書を……」  そそくさと鞄を漁り出すと、おじいちゃんとおばあちゃんはあたしの手をゆっくりと止めた。 「そんなのは要らんですよ。そうじゃね、どんなお仕事かも言わずに申し訳なかったね」  そう言って、「うんしょ」と立ち上がり、あたしを連れて店内を案内してくれた。  厨房には大きなステンレスの台があり、年季の入った延べ棒でお餅の生地を作っている最中のようだった。色んな型枠が置いてある。どれもあたたかそうな木製のもので、花びら模様や葉の模様など様々だ。  心が躍った。甘い香りとお花畑にいるような空間で、たとえ時給が安かろうと、淡々とレジを打ったりするより良いと思った。なにより、おじいちゃんもおばあちゃんも腰がくの字に曲がっている。見る限り、和菓子を作る機械は最低限で、ほとんど手作りに見える。和菓子を作るだけでも大変だろうに、品出しも立っての接客も、ゴミ出しに至るまで大変だろう。あたしは手伝いたい。有無を言わさず、ここで働きたいと思った。 「もしね、松本さんが働きたいと思ってくれるなら、是非来てくれるとありがたいよ」 「もちろんです。働かせてください」  あたしは大きく縦に首を振った。おばあちゃんが小さく手を叩いてくれた。
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