ぷろろーぐ

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ぷろろーぐ

それは光だった。 小さな小さなただの光。 真っ白な場所にいくつもある光のうちのひとつだった。 それが何者で何のために存在するのかは分からない―――。 今日もいつものように光り輝く者がこの場所を訪れた。 その者はふらりと現れては小さな光をひとつ手の平に乗せるとどこかへ行ってしまう。 どうやら今日はそれの番のようだった。 手の平に乗せられひどく穏やかで気持ちがいい感じがして、それきり意識はなくなった。 ***** 「あの……(らく)さん………」 楽が仕事から帰って来ると部屋の中央に正座した(さち)がいて、言い出しにくい事なのか名前を呼んだきり黙り込んでしまった。 楽は幸と二人で暮らすようになってからホストを辞めカフェで働いている。 日中働く方が幸との時間がとりやすいからだ。 「んー?れいの仕事の事か?」 服を着替えながら楽がそう言うと、幸はなぜ分かったとばかりに心底驚いた顔をした。 分からいでか。 見た目は成長して立派な青年だというのに、いつまで経っても子どものようで幸は本当に可愛い。 楽はつい保護者的な目線で見てしまい、苦笑する。 この世界に神は存在しており、担当の神が選んだ人間に生まれてまだ真っ白な状態からお世話してもらう。そうやって色々な事を学び立派な神様になる第一歩を踏み出すのだ。 幸もまた例外ではなく、お世話係を任命された人間の所にいた。 だが何の手違いかそのお世話係は幸に対してまったく興味をしめさずお世話を放棄してしまっていた。神様サイドが気付いた時には幸は何の感情も持たない人形のような状態になっていた。 そこで次に白羽の矢が立ったのはここにいる楽だ。 楽ははっきり言って恵まれた環境で育ってはいない。 生れてすぐに母を亡くし、まだ小さい頃に父までも亡くした。学校ではいじめられ誰も…神様も助けてはくれなかった。 普通ならそんな環境であれば他人に対して優しくなれるはずもないのに、楽は違った。自分は誰にも助けられる事などなかったのに、困っている人がいたら他に助ける人がいなくても自分だけは助けたいと思うような人間だった。 そこを見込まれて幸は預けられ、予想よりも大分早くに幸は立派な神になれる心を手に入れる事ができた。 一度は楽の元を去った幸だったが、楽のその功績により二人は再会を果たし現在も楽のボロアパートに一緒に住んでいる。 という訳で、幸は神である。神の何級だかで、まだペーペーではあるが神様なのだ。 神達は世界を幸せにするために様々な係が決められている。 それは多岐にわたり、人員不足からくる弊害が著しく新しい神の育成は急務であった。 幸は今、小さな神様未満の子どもたちとお世話係を任命された人間との橋渡しをする仕事をしている。 なので幸が困っているというなら多分これ絡みでの困り事なんだろうと楽には容易に想像ができた。 言い当てられても尚なかなかしゃべり出さない幸に楽は「ん」と先を促すように首を傾けた。 「あの…ですね……」 「いつまでじっとしとらなあかんねんっ!とろいんじゃあ!ぼけぇー!」 幸の背後から勢いよく飛び出したのはまだ幼い子どもだった。 髪を箒のように頭の上の方で括り、大きな瞳でギロリと楽の事を睨んだ。 「――――もしかして……?」 「―――はい…。すみません…もう楽さんにしか頼める人いなくて…」 幸の時とは違うがこの子もきっと何かしら問題を抱えているのだろう。 楽はこの先の事を思い、こっそりとため息を吐いた。
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