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時計を見上げたら午後の2時になろうとしているところだった。
白い壁に灰色の絨毯、無機質なオフィスの風景。
こっそりと様子を窺っていると、春日井が毛布みたいなひざ掛けを引っ張り上げて、デスクの上の目薬に手を伸ばすのが見えた。
今だ。
俺は自分のデスクから立ち上がって春日井のデスクに向かう。乱暴にならないように気を付けながら、バサリ、と紙の束を置く。
「おい、書類ここ置いとくぞ」
「ありがとう」
いつも通りしゃれっ気のないひっつめ髪に眼鏡の春日井が、こちらを振り返りもせずに言う。相変わらずピンと背筋を伸ばして真っ直ぐにパソコンに向かっている。
完全に灰色のオフィスの背景の一部と化してしまっている、線の細い背中。
ひざ掛けをかけなおしたり、目薬を差したりするのは春日井が「一息つく」時の癖だ。頼みごとをするには、その瞬間を狙うのが一番いい。
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