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家を出た俺は、仕事場に向かい、バイトの女の子にわざと近づく。
口の端が上がる。愛想良くみえる笑顔でバイトの女の子に声をかけた。
「大丈夫? 分からないことがあったら何でも声かけてよ」
「ありがとうございます! はい。何でも質問します」
色づいた瞳を向ける女を、笑顔の仮面越しに眺めた。
お呼びじゃないんだよ。お前はただの道具だ。彼女に嫉妬させるための。
もう女は必要ない。俺の家には最高の彼女がいる。
何度殺しても復活する、死体の処理にも困らない、最高の彼女が。
ああ、彼女はどうするだろうか。
きっとまたすぐに気づいて嫉妬するだろう。また俺に爪を立てるだろう。
醜悪ナ嫉妬ノ炎ヲ燃ヤシ
俺ニ刻メ。
嫉妬に歪んだ彼女の顔は、誰よりも醜悪で、誰よりも美しい。
情の深い女だった。女と長続きしない俺も、彼女とならずっとやっていける。そう直感した。
そしてそれは当たった。予想とは違う形で。俺の予想以上に、理想の形で。
家とは。外行の仮面を取り、本当の自分に戻れる場所。要らない力と気を抜ける場所。
俺はそこに、彼女を置いた。
仕事を終えて家に帰れば、彼女が出迎えてくれる。
「おかえりなさい」
微笑むと口元のほくろも上に動く。
「今日は何してきたの? 他の女の臭いをつけてない?」
今日も俺は彼女を殺す。
永遠のループ。
蛇は尾を食べ続ける。
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