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外行の仮面を取り、本当の自分に戻れる場所。要らない力と気を抜ける場所。
大多数の人にとって家とは、そういう場所だと俺は思う。
そんな場所に招き入れるのは、置いておくのは、外面の鎧を脱いでいられる人間なのだと。
俺は自宅前で足を止め、ポケットの底にへばりつく鍵を取り出した。鍵穴に差し込んで回す。
ガチャリ。手にかかる重み。
玄関のドアを開けると、今日も彼女に出迎えられた。
「おかえりなさい」
白い肌。長い黒髪。ふっくらとした赤い唇。長いまつげに縁取られたたれ目。
彼女が微笑むと口元のほくろも上に動いた。
「ご飯にする? それともお風呂? それとも……」
「飯にする」
彼女の言葉をさえぎった。三つ目の選択肢は選べない。だって彼女は。
ほっそりとした白い腕が俺の首に絡む。甘く濃密な香りが鼻腔から入り込み、俺を侵していく。
形のいい鼻が首に寄せられて、「すん」と小さな音を立てた。
「ねぇ、この臭い何?」
「バイトの女の子だよ。なんでもない、ただの後輩」
「……なんで臭いがつくほど側に寄ったの」
「そんなに寄ってな……い」
声の温度が下がる。彼女の手がシャツの襟元から入り込み、胸を撫でた。冷たい手に肌の温度を奪われ、小さく震える俺の背中に彼女の手が回った。
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