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「嘘」
「……棚の上の物を取ってくれって言われて。彼女の後ろに立って取った」
「ほら、やっぱり」
背中に痛みが走った。彼女の爪が皮膚を浅く抉る。
「あなたは私のものよ。誰にも渡さない。ねえ、近づいただけ? 触れてない?」
カリ。カリカリ。
「いいえ、近づくのも駄目。触れるなんて許さない。目に入れるのも嫌。ねえ、触れてない? 色目は? ねえ」
カリカリ。ガリ。
「ねえ、ねえ、ねえ、ねえねえねえねえ……」
ガリガリガリ。
「やめろ!」
手を跳ね上げると、じくじくとした痛みを残して、彼女の手がシャツから抜ける。爪の中に入り込んだ赤が、やけに鮮やかだった。
「どうしたの?」
心底不思議そうなその顔が、しっとりと淫靡に濡れる瞳が、すぼめられた唇の紅さと肉感が、口元のほくろが、甘く熟れた香りが、俺の感覚をぞくぞくと撫でる。もう無理だ。
俺は、すぅっと後ろに下がって小さく傾けた彼女に追いすがり、その首に手をかけた。そのまま力をこめる。
「また、私、を、殺すの」
「うるさい! 何度でも殺してやる」
ひたりと吸い付いついてくる冷たい肌に、指をめり込ませる。
「ぐ……が……ぅ」
やがて彼女は動かなくなった。
俺はのろのろと彼女の上から退き、食卓へ向かう。用意された飯を食って寝た。
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