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翌朝。
「おはよう」
何事もなかった顔で彼女が微笑む。俺は彼女の目を見ないようにして、おはようと返す。
食卓には湯気の立つ味噌汁。ご飯と焼き魚。
昨夜、否、昨夜も俺は確かに彼女を殺した。この手であの細首に手をかけて、絞め殺した。その感触は生々しく俺の手に残っている。
毎夜帰宅すれば、彼女が出迎え、あの問答があり、俺は彼女を殺す。朝になれば彼女は復活だかなんだかしていている。
一度目のあの日。彼女を殺してから。
情の深い女だった。女と長続きしない俺も、彼女とならずっとやっていける。そう直感した。
そしてそれは当たった。予想とは違う形で。
情と同じく、嫉妬深い女だった。少しでも俺に女が近づけば、陰湿に執拗に俺を責め立てた。
俺の首に腕を回し、耳元から毒のような罵りの言葉を注ぎ込み、俺の肌に歯形をつけ、爪で引っ掻く。俺の心と体に、俺は彼女だけのものだと刻む。
彼女に所有の証をつけられる度に、俺の背中はぞくぞくと震えた。傷跡が燃えた。
耐えられなくなった俺は、あの日とうとう……。
気がつくと玄関だった。無意識に靴を履いたところで、俺は回想の淵から戻る。靴に差し込んでいた指を抜き、俺はドアノブに手をかける。
「行ってきます」
扉を開けて外に出る。白い陽光に満ちた、アパート。もう一度開けるとき、また彼女に出迎えられる。
そして俺は、今夜も彼女を殺すだろう。
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