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私は今、どんな顔をしているのだろう。
私の首に手をかけて、必死に力をこめる彼を、私は恍惚と見つめた。
ミシミシと骨が軋む。酸素が乏しくなった脳が、ふわふわと白い天国へ誘う。
ああ、こんなに一生懸命に。熱烈に私を見つめて。
彼の真剣な表情がたまらない。ずっと見ていたい。
きっと今、情けなくもだらしのない顔になっている。真っ赤になって、舌をはみださせ、よだれをたらして。焦点の合わない目で、あなたを、あなただけを見つめている。
あなたも同じ。私だけを見て、私だけを感じて、私だけに力を注いで。興奮に顔を紅潮させて、ぎらぎらとした視線を私に注ぎ、体を熱くしている。
二人が一心になって、この行為に全力を傾けている。この時を永遠に続けていたい。けれど彼が与える快楽が、それを許さない。
視界が暗くなって彼の顔が見えなくなっていく。ビクビクと意思に反して体が痙攣する。
文字通り、天に昇る。最高の瞬間。
幸福の絶頂で意識が途絶えた。
冷たく硬いフローリングの上で、私はだらしなく垂れていた舌をひっこめ、体を起こす。
口のはしにこびりついた血泡を手の甲で拭うと、元通りだった。
せっかくの愛の証なのに。彼の手の形の紫色も消えるのは、少し残念かもしれない。
死ぬ前と同じになった私は、薄暗い台所に向かう。彼の後片付けをして、朝食の準備をする。
ここは彼の家。私がここにいるからには、彼が過ごしやすいように。彼が気を抜けるように。剥き出しでいられるようにしてあげなくちゃ。
起きてきた彼に朝食をふるまい、甲斐甲斐しく世話を焼いて、送り出す。
「行ってきます」
玄関の扉が開かれる。もう一度開くとき、また彼を出迎える。そして私は今夜も彼に殺されるだろう。
必ず帰ってきてね。あなたを受け止められるのは私だけ。
永遠のループ。
蛇は尾を食べ続ける。
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