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「明日、土佐へ下りますのでな。方々にご挨拶をと」
五十一歳になった湘南は、腰の低い、面長な顔に笑みを絶やさぬ落ち着いた人柄である。たまたま同じ方へ向かう中年の僧と並んで歩きながら、気さくな態度でそう言った。
「土佐と京と、よくお勤めなされる。旅はお辛くはありませんか」
「慣れておりますゆえさほどでもありませぬが、年も年です。そろそろ身を落ち着けたいとも思うております」
「いずれに―――」
京と土佐のどちらに、と尋ねようとした僧の言葉は、廊下の向こうから響いてきた、春の長閑な空気を切り裂く怒号に遮られた。
「学ぼうとする者を追い払うのか!」
湘南も中年の僧も足を止める。若い声は、二人ともよく知る僧のものだった。湘南は一息ついてから、再び変わらぬ様子で歩みを進めた。中年の僧もためらいがちにそれに続く。湘南が向かう部屋は、声が聞こえる間のその先にあった。
対面前の控えに使われる狭い間の奥に、三人の僧と、彼らに向かって拳を握り、仁王立ちしている若い僧の背が見えた。
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