二 妙心寺の絶蔵主

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「そんな寺なら、火を放って何もかも灰にしてやる。お前たちのお得意や、一切を無に還してやるぞ!」  居並ぶ年長の僧たちを前に、若い僧は言い放った。今にも喉笛に食いつかんとする、虎の咆哮のごとくであった。獣が急所を狙う目で、ひたと彼らの蒼白な顔を睨み据えていたが、一言低く問うた。 「どうなさる」  返事はない。一人の老僧の喉が、ごくりと動いた。  この者ならやりかねない―――そんな表情だった。この若い僧は、数年前、言い争いの末に夜になって相手の坊に押し入り、本当に紙帳に火を放ったことがあった。  気迫負けした様子の僧たちに背を向け、若い僧は踵を返した。そこで湘南に気付き、一瞬はっとしたようだった。だがそのまま横をすり抜け、足早に去って行った。  湘南はその背を見送り、再び小さく息を漏らす。  それが絶蔵主である。当時十九歳。四年前に十五歳で妙心寺に入り、正式に得度し僧侶となったこの青年は、誰もが手を焼く悍馬であった。
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