卓上のSNS

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あー、、今日も暑い クールビズのスーツもそう声を 上げてるみたいだ 夏休みどこ行く? 今年はペンション泊したいね! すれ違う学生達の夏休みの計画 こちとら明日の会議の計画書を作成してるってのに ふと目に止まる移動型のパン屋さんの アイスパン販売しました!の看板 群がる学生 いつの時代もアイスパンの人気は凄い その光景に学生時代の自分を重ねた そういえば あの子もアイスパン好きだったなー 一緒に食べたくて授業終了直後売店に駆け込んだっけ 高校を卒業して10年ぶりに アイスパンを購入してみた 懐かしさと知覚過敏が老いを知らせる まだ20代後半だってのに 頬張りながら ふと見上げた空 照りつける日差しが あの日を思い出させた 夏休みも終わりしばらくたった高3の話 あー…暑っちぃ〜 次の授業なんだっけ? 英語〜 …ってあれ?あいつまた一番乗りかよ!? 次は英語の授業だ 俺はワクワクしていた 英語が好きではない 先生は面白いけど もっとワクワクする事があった 英語の授業は移動教室で クラスを半分にして行われる授業システム その英語の授業で使う教室 特に指定する席はない 自由に座れる それでも俺はいの一番にある席に座る 誰にも譲れない 真ん中の席 お前この授業の時だけ妙に早く移動するよな  確かに普段の移動教室は 授業始まる1〜2分前に教室に入る 側から見れば不思議がられる そりゃそうだ 英語の授業が始まる間の 15分の休憩時間に 既に着席しているからね 五分前行動ならぬ15分前行動 優等生みたいだろ? あったあった ふふ。描かれてる 「火災訓練怠かった笑」 「分かる笑 訓練より校長の話しが長いとか」 「先生のダジャレより怠い笑」 「この前 おすすめしてた曲聴いたよ 面白かった!」 「だろ?あのバンドが好きなら コレも好きだと思ってた」 「イントロクイズ!チャラーチャッ!チャラーチャチャ!これなーんだ!笑 」 俺は机の落書きで文通をしていた。 ことの始まりは1ヶ月前 いつも通り授業が始まる2分前に入る いつもの真ん中の席 窓際も四隅は既にとられている オセロの気分さ 退屈な授業 モチベーションが上がらない 時折みせる先生のダジャレ モチベーションは上がらない ノートが汚れるのが嫌だから机に落書きを描く 画力の低い猫の絵や 好きなアーティスト名を明朝体で 退屈な授業の退屈な時間潰し チャイムが鳴る 次の授業を終わったら昼食だ カレーでも食べようかな 今日も英語の授業 いつもの席 いつもの退屈な時間 けど今日はいつもと違った ふと見ると以前描いた落書きに コメントが添えられていた 「 このバンドのスペル 間違ってますよ! 正しくはこうです!笑 あとこれは…ラッコですか?笑 」 恥ずかしい これはかなり恥ずかしい 好きなバンドの名前を間違って覚えてたし 猫を描いたのにラッコと思われた 「 マジですか!? ご親切にどうも!照 それと…猫です!恥 」 と書いた テンション上がる華の金曜日 土日の予定を考える いつもの真ん中の席 またコメントが書かれていた 「 いえいえ。笑 このバンド好きなんですか? 結構マニアックですね笑笑 アルバム持ってます? 」 と、かかれた漫画の吹き出しに猫が書かれている 「 ハマってます! アルバムは全部持ってます そうですね笑 友達は誰も知らないです 知ってる人初めて笑 好きな曲は〜   です 猫うまっ!?!? よーし。これはなんの絵でしょうか! 」 子泣き爺のイラストと返事を書いてみる 月曜日が待ち遠しい 英語の授業だ! 俺はワクワクしていた 「 おー笑 かなりファンですね! この曲いいですよね! じゃあこのバンドとかも聞いてます? 、ひ?人?、、ら、ライオン??笑笑 」 …画力を上げたいと心底思った 卓上の文通は世間話や好きな色 趣味 食べ物の話など 絵を描いて 当てるクイズやなぞなぞとか 1時間の授業はあっという間に感じた 週の始めの月曜日ってのは 皆んなは憂鬱だった それは 世代問わず けど俺はワクワクしていた。 英語の授業があるからだ むしろ土日が一番 憂鬱だった 「 待て分からん笑笑 オリジナル曲だろそれ!笑 そーいや売店でアイスパン販売するらしいぜ 買い占めだろうかな笑 」 落書きを終えて授業が終わる10分前 その日はいつもと違った 教室の外に次にこの教室を使うクラスが 英語の授業を終わるのを待っていた。 ふーん 授業早く終わったんだ、、 いいなーってか直ぐに使うんだと思いながら ふと1人の女の子と目があった 教室を後にする 背中に視線を感じる 昼食時間 アイスパンを購入する 俺の頭の中から あの子の事が離れない 考え事をしてたら アイスが溶けてしまった 放課後 英語の先生に聞いてみた 先生。あの教室使ってる授業って 何組あるの? ん? 君のクラスと君の学科の1年生の2組だけど 同じ質問されたよ笑 次の日 普段通らない 廊下を歩く そこは2つ下の学年 教室を素通りするとき横目でチラ見する あの子がいた。 目が合った ホームルーム あの子のクラスが次の授業で移動していた 目が合った 全体集会 あの子を探す 見つけた ん?あの子も誰か探してる あ…目が合った あの子の事で頭がいっぱいになる 話がしたい 「 違うわ笑 正解は今流行りの失恋ソングでした! って失恋ソングとか聴かなそうだね笑 ズルい笑 アイスパン欲しい!あ!あと焼きそばパンも! 次からは2つよろしく!笑 」 「会って話さない?」 直ぐに消した。 俺は何をしてんだ このままでいいじゃないか この関係だから いいんじゃないか 「会ってみたい」 そしてまた消す 書いては消すを繰り返す1時間 そこだけ色が薄くなるほど  「 今日アイスパン2つ購入するんだけど   一緒に食べない?裏庭で待ってる 」 教室を後にする ドキドキが止まらなかった。 中学の体育祭のリレーで大コケした時よりも 遥かにドキドキしていた はい!アイスパン2つとカフェオレね! 裏庭のベンチに座る アイスパンが溶けない様に 日差しからハンカチで覆った 1分が長く感じる 1秒毎に鼓動が速くなる 後悔 不安 期待が入り混じる 不思議な気持ち あー…来なかったら失恋ソングでも聴こう シャンプーの香りがした 顔をあげると 口元を 一の字にして無言で隣に立つあの子 あ、アイスパンどうぞ で 口元が 緩むあの子 ふふ。やっぱり失恋ソング聴かなそう笑 ああ…やっぱり…可愛い お人形さんみたいな 小柄で清楚な顔立ち 笑うと目が線になる 白い肌 長い髪 女子特有のいい香り 愛奈 名前も可愛い 今でも思う キャバクラで50分過ごすより 愛奈と過ごす50分に勝るのはない それからは毎日の様に愛奈と昼食を食べた 女子と話すのが苦手な俺が毎日話をした 移動教室 愛奈を見たくてわざわざ遠回りをする ホームルーム 窓際の席に座る俺に 愛奈は素通りする時微笑みながら 窓を2回ノックする 全体集会 何百人の中でも直ぐに愛奈を見つけれる 好きだと言いたい 告白はメールより直接がいいよね!と クラスの女子が話してるのを聞いた 今では待つのが当たり前になってるけど つい10数年前までは携帯電話はまだ持ってない 学生はチラホラいた。 俺も愛奈もその1人 入学祝いの携帯とか羨ましい限りだ 冬休みか。 嫌だなー 多分この世界で連休を喜べない 学生は俺だけなんじゃかいか? 長ったらしい校長の話も終わって 俺はすぐに愛奈を呼びつけた 電話番号教えてくれ! 冬休み 電話したい! うん。私も おうちの電話  いつもなら男友達と電話する けど今日は違う 会話の内容も親に聞かれたくないし 表情も見られたくない 21時丁度にコールする はい。もしもし 普段話してるはずなのに 聞き慣れた声なのに めちゃくちゃテンパった あ、俺俺!俺だよ 素でオレオレ詐欺ぽっい電話してしまう 愛奈は笑ってくれた 女の子に学級連絡以外で 電話するのは初めてだった 気がつけば通話時間は2時間を軽々超える最中 土曜サスペンスに夢中の母親が 事件のクライマックスを 固唾を飲んで見守る あぁ!やっぱり犯人はあいつだった!! ふふふふ めっちゃ叫んでるじゃん 母の声も愛奈に聞かれて恥ずかしかった あのさ!親戚の子の誕生日プレゼント買いに行くんだけど 一緒に、行かない? 今思えばかなり無理のある口実 そんな俺の思惑を察知してたに違いない ふふふ。うん。行く 即答だった ごめん待った? ……… あ!いや全然!! 私服姿見たのは初めてだ 普段と雰囲気が違ってて 化粧も少し濃い 可愛い めちゃくちゃ可愛い 思わず 可愛い と口走る 愛奈は嬉しい顔する時 口元を 一の字にする 買い物 ランチ 雑談 時間はあっという間に過ぎた お家まで送った 冬休みが終わり登校する この前いた子って彼女? クラスの女子に言われた いや?…違うよ ふーん… あの子あまりいい噂聞かないから気をつけなよ? は? 黙れブス 心からそう思った 新学期早々 気分を害した ……… 気にしてない いや……気にしないようにしていた。 あの子ってどんな子? 愛奈はいつも1人だった 全体集会で直ぐに見つけれたのも ひとりぼっちだったから なんで俺と毎日ご飯食べるんだろう ひとりぼっちだったから クラスの女子とつるんでる所は見たことない クラスにいる愛奈の表情は暗い その容姿から入学して早々男子に チヤホヤされてたらしい でも男子が苦手な愛奈はそっけない態度をとる お高い女 贅沢 私だったら直ぐ付き合うのに 本人が思う事とは裏腹に身勝手な噂だけが 愛奈の人柄を作る 噂は飛躍し 根拠のない男の噂が浮上する そうして愛奈は表情を暗くなる それに対してもイチャモンをつけられる 俺はそんな話をぺちゃくちゃ喋る 後輩の女子に怒りを覚える ぶん殴りたい 容赦なく ぶん殴りたい 同時に 自分にも腹が立つた 友達との話や クラスの話を 俺は愛奈に聞いていた その表情は作り笑いだったんだ その日の放課後 いつも通り話をした 好きです 僕と付き合って下さい はい。 愛奈の口元は 一の字だった その日 初めて キスをした 昼間の怒りなど 何処へやら さっきまで一緒に居たのに 帰宅して直ぐ電話した 幸せだった 付き合って数日後 学校ですっかり話し込んだら 下校時間を過ぎてた まだ、帰りたくないと 頭を肩にちょこんと乗せてきた シャンプーの匂いが理性を不能にする 唇を重ねる 少し噛んだり 舌を絡ませる いつもより長めのキスが 本能を刺激する お互い床に倒れ込み 少しブラウスが乱れる ボタンの隙間から 白の下着が見えた あたりは真っ暗なのに 男子高校生にはもう我慢が出来なかった 恐る恐る触れてみる 吸い付く様な触感 兄貴の部屋にある アダルトビデオを観ていた 手順はバッチリ 大丈夫。 そ…こ…じゃない もう少し…下の方 うん…そこ 思ってたよりもずっと下だった そして大変な事を思い出す 避妊具持って無かった だってまだ付き合って1週間も経ってないし 途中で終わろうとすると 大丈夫だよ と言った。 当時の俺は大丈夫の意味が分からなかった けど本能が押さえられなかった 何回も 身体を重ね すっかり真夜中になる 家まで送って 帰り際に 大好きだよ とキスをされた 向こうからされるのは 初めてで 嬉しかった おやすみ また明日 次の日 愛奈は学校を休んだ 電話も繋がらない その次の日も休んでいた やっぱ嫌だったのかな? 罪悪感でいっぱいになる 今日お家に行って謝ろう 全てが身に入らないまま 英語の授業を迎えた いつもの  真ん中の席に座る 卓上には愛奈からのメッセージが書かれてた 「 突然居なくなってごめんなさい 実は付き合う前から 学校を辞める事を決めてました ここは私が居てはいけないみたいです 毎日が憂鬱だった 苦しかった 死にたかった そんな日常に現れたあなたが 私を救ってくれた 貴方とのやり取りがとても楽しくて嬉しかった 初めて貴方を見た時ドキドキした 貴方を見かけるたびドキドキした 貴方からの誘いにドキドキした 付き合う事になって辞める決意が鈍った 貴方と離れる事が本当に良いのか それでも やっぱり 苦しかった この場所は とても 嫌な場所だけど あなたとの素敵な思い出を嫌な場所で 去りたくはなかった 身勝手でごめんなさい ありがとう。大好きだよ さようなら 」 頭が真っ白になる 何も考えられない 次の授業も全く頭に入ってこない 昼食時間 いつも通り売店で焼きそばパンを2つ買う 来る筈もない裏庭で 焼きそばパンを食べた 一口目でお腹がいっぱいになる 放課後  校内をうろついた どこからひょっこり出てくるんじゃないかと 期待して 正気のない足取りはやがて 英語教室の前に立つ 窓から吹き抜ける風が 愛奈との思い出を走馬灯の様に 駆け巡る いつもの真ん中の席に座る 何十回も読み返す 目をつぶっても 空白の頭の中に その文章が滲み出る やっと理解する 愛奈はもう 居ないんだ 卓上に 読まれる筈もない 返事を書いてみる 「ありがとう 大好きだよ 幸せになってね」 別れとともに 卓上のやりとりは この日をもって終わりをむかえる 失恋ソングで泣く女子を馬鹿にしていた 帰りに立ち寄ったレンタルショップ 視聴のヘッドホンから流れてるのは 女子の間で流行ってるアーティスト 歌詞が耳に入ると 思い出と共に涙が流れる ああ、、こーゆ気持ちなんだなと 一緒に誕生日をお祝いしたかったな いっぱい色んな場所行きたかったな いつかこの歌が良い思い出に 変わる事を願ってた まるで自分がこの世界の 主人公のような気持ちでいる事に酔いしれる 卒業式 なんの力もない卒業証書と言う紙切れを手に これから社会に出される RPGのゲームでも もう少しマシな装備するってのに 初任給は念願の携帯電話を購入した おもちゃを買って貰った子供の様に はしゃぐ自分 友達に意味のないメールを送ってみたり そんなワクワクは1週間も経つ頃には 全く無くなった 慣れてしまうからだ 愛奈の事もいつかは 慣れてしまうのか? 少し寂しい気持ちと 早く忘れたい気持ちが混ざり合う 時間が解決してくれるのか? そんな長い間悶々とするのなら シャーロックホームズの様な名探偵に 直ぐに解決してもらいたいもんだ そんな悠長な事を考える事とは裏腹に 今に至るまでの 10年はとても早かった いつの間にか20歳になり いつの間にかお酒も呑める いつの間にかカフェオレじゃなく コーヒーを飲む様になった いつの間にか あの子 忘れられた 勤務を終えて スーパーに寄り 晩御飯を作り 明日の計画書をまとめ ブラックコーヒーを飲む なにをしてても あの子の事が頭をよぎる ふと目にする卒業アルバム 眺めても 当然あの子の姿はない 初めてフェイフブックを開いてみた おすすめの友達欄に 学生時代の同級生がでてくる へー!あいつ結婚したんだ!? え!?代表取締役!?凄っ なんだか取り残された気分だな… 同窓会を迎える頃には少しでもマシになっておかなくてはなと焦りを覚えた 少しの期待と下心が指を走らせる 愛奈を 検索する 愛奈が去った後 うわさを聞いた 県外の専門学校に行ったらしいよ また 噂話か 呆れる俺とは裏腹に 当時俺の心は揺さぶられていた 一方的な別れに複雑な心境だった ありがとう その言葉に俺は どうしてもモヤモヤしていた 救えたのなら何故居なくなった? 大好きなのに何故別れるの? 愛奈 君は本当に俺が好きだったのかい? 女心は秋の空 それは どんな名探偵にも解決できないだろう アカウントを見つけた アイコンには旦那さんと子供との写真 その口元は高校の頃と変わらない 一の字だった
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