幸せな世界

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「クソ……クソ……クソ……チートしやがって……ふざけんな……クソが」  震える指先がコントローラーのボタンを乱暴に連打した。すでに十二時間以上,同じことを繰り返しては誰かを呪うような汚い言葉を呟いていた。激しい爆発音や銃声が直接鼓膜を振動させ,撃たれて飛び散る血や臓器が脳を興奮させた。  全身びっしょりと汗にまみれ,コントローラーを握る手が激しく震えたかと思うと,大量の鼻血がでっぷりと突き出した腹を汚した。それでもゲームは進んでゆき,モニタの中でバラバラに吹き飛ぶ人の身体を見ては呪いの言葉を呟いた。 「ふざけんな……てめえら,みんなぶっ殺してやる……」  しばらくしてモニタが真っ暗になり,再びランキングで男のハンドルネームがわずかに上がるのを確認すると,大きく息を吐いてヘッドフォンを乱暴に外した。机の上に転がる乾燥肉を口に放り込み,しゃぶりつきながら,いつからそこにあるのかわからないペットボトルを口にして一気に飲み干すと,画面から消えてゆくランキング表を眺めながら背中を伸ばした。  モニタの隅に見える時計が深夜三時だと表示していた。 「腹減ったな……」  血で汚れた服を脱ぎ捨て顔を拭くと,適当なシャツを羽織った。背中に大きな染みがついたシャツは脂臭く,汚れを拭いた跡のようだった。
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