幸せな世界

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 目の前に人がいると思うと,身体が動かなかった。相手はこっちを気づいているのか,なぜこんな時間にこんな人気のない場所にいるのか,頭の中でぐるぐると疑問が浮かんでは消えた。 「なんなんだよ,あいつ。やけに小せぇな。こんな時間に夜遊びしてるガキか……?」  ゆらゆらと街灯に照らされる人影が動いたかと思った瞬間,弾かれたように来た道を戻り,目の前のマンションの非常階段を身を低くして静かに登った。 「くそ……丸腰じゃなにもできねぇ……」  非常階段はまっすぐ屋上まで上がれたが,途中のフロアには外からは入れない仕組みになっていた。  階段を登っただけで息があがり,脇腹に激痛が走った。何度も深呼吸をしながら脇腹を押さえ,誰も自分を追っていないか,さっきの人影はついてきていないか耳を澄ませた。 「なめんなよ……逃げてんじゃねえからな。これもテクニックだからな……」  暗闇に身を潜めているとゲームの音楽が頭の中で激しく響き渡り,目の前に自分のステータスが現れたかと思うと消えてしまった。なにか持っていないかと,何度もポケットを触っては自分の所持品を確認した。 「マジかよ……なんもねぇじゃん……」
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