平和な国

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平和な国

この国は平和だった。 昔は醜い戦争を多くしていたが、それも過去の事となり、 皆が国をより良くしようと張り切り始めた。 「あれから十年か…」 人々は言う。 空飛ぶ車が走り、高層ビルのエレベーターは時を超える。 家は空に建てられ、人々は科学だけではなく魔法を使うようになった。 便利な世界に満足する一方、人々は日々が酷くつまらなく感じていた。 なぜなら醜い戦争の中の一つ、隣国『デリッカー国』との大戦争によってこの国から出る事ができなくなっていたからである。 時空を越え、過去に飛べるので生活に不便はないが、 やはり他国の流行りが入ってこないことによって、人々はマンネリ化した生活に飽きを隠せなかった。 そんな国にある日二人の少年と少女がやってきた。 黒魔導師と名乗るソーラと 白魔導師と名乗ったミケーシャだ。 その呪いのせいで誰も国に出入りが出来ない状況であった為、皆は驚き、喜び合った。 「どうしてこの国に?」 「どうやって?」 「貴方たちはどこから来たんですか!?」 国民は彼女達に沢山の質問を投げかけた。 すると最初は渋っていた彼女も面倒くさそうな面持ちで話しだした。 二人は兄弟であること、 母は白魔導師、父は黒魔導師だったこと、 二人はある出来事により姿を消したこと。 私達はある恩人の屋敷にある ドア型のテレポーターでここの国にやってきたこと。 私達がいた国はエピカールスという名前の毒ガスによって 閉鎖されてしまっていること、 私達はその解決策も探しに来たということ…。 ミケーシャがそう話している間に ソーラは周りの人だかりをかき分けて出て行った。 「本当に貴方達が来てくれて良かった。」 そんな言葉を聞くや否やミケーシャの顔がひきつり、 後ろを振り返った。 大きな観覧車の上に小さな黒い点があるのを彼女は見逃さなかった。 そして、その点から鳴らされた指の音も。 “パチンッ” その音は人々や建物の間を通り抜けていった。 人々がその音を中心に波紋のように膝を地面につけ、ひざまずく。 そして、声を揃えて繰り返す。 「我らが王!ソーラ様!!」 ミケーシャは観覧車の上の弟を憎々しげな目で見つめると 白いマントをはためかせ、飛び上がった。 そのままの勢いで弟の腕をむんずと掴み、 誰も居ない高層ビルのガラスに体当たり。 細かく割れたガラスの破片が二人の髪に付き、キラキラと輝く。 ミケーシャは近くのエレベーターのボタンを連打すると後ろを振り返った。 「どうして何度もこんな事をするの。」 ミケーシャは鋭い目で弟を睨む。 外からはまだソーラを王だと呼ぶ声が響いている。 「父さんの言葉。覚えてないの?」 彼は冷たい微笑を浮かべた。 ミケーシャは下唇を噛んだ。 「お前はいつか王になる男だ、って奴?」 「そ。他に何があるのさ。」 「こんな事をしなくても王になれると思うけどね。」 ミケーシャは猫のような目を威嚇のように吊り上げた。 ポーン… 妙に洒落たエレベーターの音が二人だけのフロアに響く。 ミケーシャが開いた飴色のドアの方へ顔を向ける。 ソーラはカツカツと高いヒールを鳴らしながら姉の横を通り過ぎた。 が、何かを思い出したかのように振り返るとそっと言葉を放った。 「そういや、姉さんは何で今更理由を聞いたの?」 ミケーシャは困ったような顔をすると笑って言った。 「特に意味は無いよ。」 そう言うとソーラは首を傾げてエレベーターに足を踏み入れた。 ミケーシャは誰にも聞こえないような声で言った。 「王になるのは君じゃないんだよ。」 そう言って胸の開花した花のペンダントを握り締めたかと思うと 彼女は目を閉じた。 脳内に昔の父からの声が響く。 『その魔法のペンダントの花が開く時。 ミケーシャ、君は他に無い才能を手に入れる事ができる。』 口角をあげ、目を開く。 その目は緑色から黄色に変化し、爛々と輝いていた。 彼女はこの世界を元に戻そうとエレベーターに足を踏み入れ 約3分前のボタンを押し、弟に話しかけた。 「ねぇ、ソーラ。もう次で四回目なんだからそろそろやめてね。」 ーーーーーーー この国は平和だった。 昔は醜い戦争を多くしていたが……
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