シロとクロ

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「みぃつけた」 「誰よ、あんたたち」 「そんなことは、今はどーでもいいの。君を探していたんだ」 「私は別に探されてなんかいないんだけど」 「でもねぇ、君を探してくれって頼まれているんだよ」 「誰によ?」 「それは、あれだ。企業秘密ってやつだ。とりあえず、来てもらおうか?」  微笑みながら中性的な顔の男子大学生が、新宿駅からほど近い路地裏で茶髪の女子大生の腕を掴んでいた。女子大生は不満そうな目で男子大学生を睨みつける。男子大学生はそんな女子大生の目つきに気を気に留めずにこやかに笑っている。  はたから見れば、ナンパに見える。  男子大学生と女子大生が向かい合っているのが気になるのか、通り過ぎる人たちのほとんどが二人の様子を横目に見ながら歩いていた。  周囲には居酒屋、ラーメン屋、雑居ビルが立ち並んでいる。昼休み時間なのかサラリーマンやOLがランチのためにこの通りを歩いている。  中性的な顔の男子大学生は、どこかのアイドルグループのメンバーとしてテレビで活躍していそうな華やかさを持ち合わせている。  そのせいか、先ほどからそばを透っているOLのほとんどが、彼ばかり見ている。視線を集めているのを気にもせずに、彼は彼女の腕をもって離さずに言い合いをしている。 「おい、いい加減、やめろ。周りから痴話喧嘩か、ストーカーか、不審者かと思われるぞ」 「そう見える? まあ、今はお姉さんに来てもらわないと困るじゃん」 「それはそうだが……」
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