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翌日、凌は一人で指定されたビルの入り口にやってきた。時計を見て時間を確認する。
待ち合わせまであと5分。
ケイとは昨日から連絡を取っていない。珍しくケイからも連絡がなかった。昨日のようないさかいであれば、その日中にいつもと変わらぬ無駄話のようなメッセージが来る。
しかし、昨日は一切連絡がなく、凌は不思議に思っていた。
気を取り直すように凌は眼鏡を押し上げる。いつものデザインとは違う眼鏡だが、これは灰野の指示だった。指示された眼鏡は何かを記録できるようにカメラとマイクを仕込んである改造眼鏡だ。記録をするときにいつも凌が使っている。
「どーもぉ。あれ、ケイ君は? ケイ君にお願いしたんだけど」
気が抜けたような声をかけてきたのは峻希だった。
「教授からの呼び出しがあってね。悪いけど、俺だけになった」
「ふぅん。まあ、君でもいいか」
困ったように笑いながら、峻希は凌をビルの扉を開けて、入るように促す。峻希に案内され凌は峻希と共に、2階に上がっていく。
階段近くにあった入り口のポストをちらりと見ると、受け箱にはどれもガムテープが張られており、使われていないのが一目でわかった。
2階に上がっても、どの事務所の扉にも会社名が掲げられていない。
「空きビルなんですか、ここ」
「そうみたい。珍しいよねぇ。先輩もここが安く借りられそうだってことで、ブランドを始めるみたい」
「大学近くですから、若者向けなんですか」
「そうみたい。詳しくは俺も知らないけどね」
峻希に案内されたのは、階段から一番離れている事務所の扉前だった。
「ここがブランドオープン予定の場所」
「珍しいですね。ビルの二階って言うのも」
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