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「知る人ぞ知る、みたいなのが好きな人でね。家賃が高くないし、学生に近いところでできるのが良かったみたいだ」
峻希が扉を開けて入る。凌もそのあとに続いて入ると、殺風景な部屋がそこにはあった。窓際に事務机と椅子、入り口近くに応接用のテーブルとソファがあるだけだった。
アパレルブランドをオープンしようとしている部屋には見えない。部屋にはダークスーツを上品に来た男が1人いた。
「連れてきましたよ、先輩」
「ありがとうな、峻希。お前は帰って大丈夫だよ」
「了解でーす」
男に言われた峻希はさっさと部屋を出て行ってしまった。どこに隠れていたのか、オールバックの男が部屋の奥から一人現れた。こちらは金持ちそうな雰囲気を醸し出している。
「モデルのバイトって聞いてますけど?」
峻希を見送る凌は、男たちに視線を戻す。
「そうそう。君みたいな若い人たちに来てほしい服のブランドを立ち上げるところなんだ」
「どんなブランドなんですか?」
「んー、スーツが似合う若者向けってところかな」
ふざけたような言い方をしながらもスーツを着ている男もオールバックの男も目は鋭い。凌は心臓がいつもよりもうるさく聞こえてきていた。
落ち着こうと、凌は無理やり笑顔を作り、スーツ男に向き直る。
「今日はモデルの話、ということですが俺で良かったですか?」
「んー、そうだねぇ。モデルってよりも、君は何を調べにきたのかな?」
スーツ男は笑顔をすっと消して、真顔になる。オールバック男は真顔のまま入り口に立つ。
「何の話ですか? 峻希さんに紹介されただけですけど」
とぼけたような笑顔で凌は応える。
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