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悟られないように凌は平静を装う。しかし、相手の方が上手のようでそれすらも見抜かれているのだろう。
凌は頭の中にいかに安全にこの場から身を引くかだけの手数を考える。泣手も何手も頭の中で考えるが、どれも目の前の男につぶされる可能性しか見いだせないことに、凌は焦りを覚える。
「答えてくれたらここから安全に帰してやるよ」
片頬だけあげてスーツ男は笑う。男の言葉が嘘だということは凌には見え見えだ。凌は冷静に観察を続ける。
オールバック男はじっとこちらを見たまま動かない。スーツ男は凌の目の前で不敵に笑って腕を組んで立っている。スーツ男もオールバック男も懐が膨れている様子はない。スーツ男はソファの背もたれに軽く腰を掛けているだけで、こちらの様子をうかがっている。
カタッ
扉の方からかすかに音がした。
スーツ男はオールバック男に目配せをして扉の外を確認させる。扉を開けると、ピザ屋の店員が配達用の鞄を男に見せながら、高らかに言う。
「どーもー、デリバリースターピッツァでーすぅ」
空気の読めない店員は鞄を掲げたまま、部屋にずかずか入り込んでくる。オールバック男もどうしたら良いのかわからずにいるが、店員を見下ろしながら睨みつける。
「ご注文の、マルゲリータと肉モリモリピッツア、モリモリモリポテトですぅ」
「おい、そんなの頼んでないぞ」
スーツ男が入り口に足早に向かう。オールバック男は店員から目を離さずに黙って立っているだけだ。
「えー。そんなの言われても困りますぅ」
「ここには俺たちしかいないんだよ。その俺たちは誰もピザなんて頼んでないんだよ」
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