シロとクロ

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「だからと言って、俺たちがここから逃げない可能性もあるのをお忘れなく」 「お前も生意気なガキだな」 「あんたとあんまり年も変わらないと思うけど」 「お前もうるせぇなぁ」  恵から足を外すと、スーツ男は一歩一歩凌に近づいてくる。オールバック男は入り口の前を守るようにして立つ。  スーツ男はポケットから折り畳み式のナイフを取り出して、凌に刃を見せつけるようにして持つ。 「ここのこと黙ってくれていると助かるねぇ」 「黙ると思いますか?」 「思わないねぇ」  一歩一歩距離を詰めるようにしてスーツ男は凌に迫っていく。凌は先ほどと同じく、一歩も引かずスーツ男をじっと見る。 「あ。デリバリースターピッツァの者ですがぁ」  ビルの外から大声で誰かが電話か何かを受けているようだ。男たちが外に気を取られた一瞬の隙に恵に駆け寄る。まだ気を失っているらしく、目が覚める気配はない。 「あー、お届け予定のマルゲリータですか? すみません、今配達員に連絡を取りますので!」  聞いたことがある声。凌は自然と笑みがこぼれた。 「はい? あとポテトもですよねぇ、承っております! はい、すぐ伺いますんで!」  スーツ男が慌てたように窓の外を見る。つられてオールバック男も窓際に駆け寄る。外の声の者が本物かどうか確認している隙に、恵の頬を軽く叩くと恵がうっすらと目を開ける。 「り」  目を覚ました恵に凌はすっと唇に人差し指を当て、静かにするように示す。状況を掴めていないのか、まだぼんやりしているのか恵は口を閉じて体を起こす。  どこも痛めている様子は今のところないのを凌は確認してから、男二人の様子を見る。  男二人は何かを話しているようで、凌たちは意識の外のようだった。 「動けるか?」  小声で凌が恵に訊くと、恵は頷いた。  コンコンコン
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