シロとクロ

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 そう灰野に伝えて、凌はケイと共にその場を離れた。 しばらく二人は黙ったまま、新宿駅を背にして歩く。 「次の仕事はいつかねぇ」 「不定期だから気にしたって仕方ないだろ、恵」  目線を合わせないようにして、凌はケイ――本名 石黒恵に声をかける。不機嫌そうに恵は凌を見る。 「この格好の時はその名前で呼ぶなよ、凌」  姿、口調、声。  どれをどう見ても男子大学生にしか見えないが、恵は女子大生である。  女性にしてはやや高めの170センチの身長、中性的な顔立ち、テレビでよく見るアイドルに多い、耳にかかるくらいのショートカット。それが今の恵の姿である。  髪形は元からショートカットであるが、男装するときは、本人曰く『ちょっとモテそうなイケメン』を意識しているらしく、服装や仕草は男性の凌から見てもイケメンに見える。  どうしてそんな姿をしているか。恵の答えは明確だった。  男装するのにスリルを感じるから。  どうやら昔から恵は男の子のような恰好をしていると男子に間違えられることが多かったようだ。本人曰く、それが楽しかったらしく、何かとつけて男装することを今でも楽しんでいる。  凌も最初は騙されていたが、しばらく注意深く観察してようやく同一人物ということに気が付いた。  なぜ男装をしているのか興味を持ち、恵に声をかけたのがちょうど大学に入学して一か月が過ぎようとしていたころだった。その時期と重なるようにして、灰野から遅い合格祝いの食事の誘いが来た。
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