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「おはよ、凌くん」
「おう」
翌日、午前中の講義が終わると凌は機嫌が良さそうな恵に大学内のカフェテリアの入り口で会った。
二人が通うのは都心に近い大学で、その学生数からマンモス校としても知られている。学内には、ビルや講堂がいくつも並んでおり、学部によって受ける講義の教室は棟ごとに異なっている。
二人は在籍している学部が違うため、会うのは学内でも一番広い学生食堂兼カフェテリアくらいだった。
「今日の文学論の講義でさ、教授の資料がねぇ」
楽しげに話しながら、恵は凌の隣を歩く。凌は相槌を適当に打ちながら恵の話を聞いている。恵の話を聞きながら、凌は自動販売機でお茶を買い、恵と庭園が見渡せる窓際のテーブルに座る。
ちらりと恵を見ると、昨日とは全く違う服装だった。昨日のイケメンぶりはどこにも感じさせない恵の姿に凌は今でも感心する。
セミロングを緩く巻いた黒髪、大きめの眼鏡、グレーの半そでTシャツに黒色キャミワンピース、足元は低いヒールのサンダル。
雑誌に載っているファッションモデルのようだが、そこにイケメン要素は皆無だ。実際に女の姿でも街中でモデルのスカウトをされたことは何回かあったらしい。
いつだか自慢気に恵から凌はそんな話をされたことがあった。
恵はノートパソコンが余裕で入りそうなほどの大きいショルダーバッグを膝におき、凌の目の前に座る。
凌はお茶のペットボトルで一口のどを潤すと、口を開く。
「石黒さん」
「やだ、他人扱い。寂しいなぁ」
からかい口調で指摘する恵。
凌が恵に声をかけて以来なんだかんだと学内や仕事で会うが、基本的に友人止まりだと凌は認識している。
もしかしたら恵は違うかもしれないが。
「他人だろ、俺たちは」
「2か月もなんだかんだ続いているんだから、名前呼びで良くない?」
上目遣いで、両手に顎を乗せて言う。誰から見てもかわいく見えるが、これも恵の計算のうち。それを知っている凌は気にすることもなく、恵と目線を合わせないようにしてスマホを鞄から取り出して見る。
「午後は授業なの?」
「ない。そっちは?」
「フラ語。お腹いっぱいになると眠くなるから、お昼ご飯は授業終わってからかな」
「そか」
凌は特に恵の話に興味を持つことなく、スマホをいじり続ける。恵もそんな凌の態度を気にもせずにスマホを鞄の中から取り出す。
ブブブ
凌のスマホにメールが入る。差出人は灰野だった。
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