シロとクロ

8/33
前へ
/33ページ
次へ
 タイトルはシンプルに『依頼』とだけ書かれていた。さっと内容に目を通してから、凌は恵に伝える。 「仕事入った。授業終わったら打ち合わせな」 「それじゃ、私の家でね」 「あ、おい」  ひらひらと手を振りながら、凌に言い残すとスキップでもしそうな軽い足取りで恵はカフェテリアを出て行った。その様子を呆れたように見ながら、スマホで灰野に了解と短い返事を送った。  三限目が終わるまで凌はのんびりとカフェテリアで過ごすことにした。授業でメモをしたノートを見ながら、課題となっているレポートをパソコンで書く。  集中すればどこにいようとも周りは気にならない。凌が自覚している長所であり、短所だ。集中すればするほど、凌の頭にはスルスルと文字が取り込まれるようにして、頭の中にある広大なメモ用紙に文字と絵が書かれていく。  それさえできれば、記憶喪失にならない限りは記憶が消えることはない。いつからか周りは自分と同じ記憶力ではないと知り、周りにこの能力のことは黙っている。  知っているのは、恵と灰野だけだ。  キーンコーンカーンコーン  講義終了のチャイムが鳴り、凌は我に返る。腕時計を見ると、授業が終わっていた。顔を上げて、天井を見ながら大きく一息吐く。  集中したからか、体があちこち凝り固まっている。肩を回してほぐしながら、辺りを見回すと学生の数は昼休み時間よりもずいぶん減っている。各々講義に出ているのだろう。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加