2.ユフの果樹園【2000文字Ver】

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 全ての子供は8歳の誕生日に将来を自分で決める。平等に。  果実は果実として生活し、庭師は本人の希望と適正に合わせて見習い仕事を始める。  昔、クローンを食べるという話もあったけど、クローンが不平等だという声が上がり、結局全人類が平等に自分で選ぶことにした。 「アニュ、明日の予定はOK?」  調理器具と熱気に溢れる僕の背後で囁くのは、僕の恋人で同僚のストゥ。この店のパティシエール。明日、僕とストゥは月1度の休みをとった。  最近ストゥに結婚を迫られている。  結婚と聞いて一番に浮かぶのは、最も長い時間一緒に過ごしたテム。同い年の幼なじみで、彼女は果実を選んだ。果実と庭師の寿命以外の違いは、生活にお金が必要かどうかだけ。  テムは自然が好きで、毎日1人で野山で暮らしてた。  果実の特権もキャンプ道具を手に入れることに使うだけで贅沢もしない。果実でよかったのか尋ねると、テムは十分楽しいと答えた。毎日大好きな自然の中で食べたいときに食べ、寝たいときに寝る思うがままの生活。  庭師の生活に自由はない。  テムは果実の平均寿命より少しだけ長い17歳で収穫された。苦しんで死ぬ庭師と違い、眠るように安らかに目を閉じた。  果実は、遺言でその一部を贈ることができる。果実が残せる唯一の想いは、贈られた人に必ず伝わると強く信じられている。  小指の先ほどの大きさに加工されたテムをスープに混ぜて食べたら、僕の料理にテムの感じたそよ風や土の香りがまじるようになり、僕はそのまま皿に表現した。 「聞いてる?」
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