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「あのね、僕、このままだと薄くなってなくなっちゃうみたい」
「やっぱり」
「やっぱり?」
「ああ。だんだん薄くなってる気はする。少しずつだが」
「見てわかるものなの?」
「気配かな。見た目は普通。なんとかならないかな」
「心配してくれるの?」
「一応」
嬉しいな。でも、どうしようもないんだ。
逃げ出した怪異を全部捕まえる自信は正直ない。
捕まえたいとは思っているんだけど。
だからなんとなく、僕はそのうち消えてしまうんだろうっていう気がしている。
「東矢には覇気が足りない」
「覇気?」
「そう、俺も呪われていて油断すればすぐに死ぬ。だが俺は簡単に殺されるつもりはない。だから東矢ももう少し頑張れ」
「うん、わかった」
覇気ってどうしたらいいんだろう。
そんな話をしていると、神社の石段を登りきる。
藤友君とはそこで別れて僕は封印のある神社の古井戸を降りる。実は先に井戸に落としたけど大丈夫だった。さすが神様、丈夫。
井戸の底にある封印のふたの上でそっと実を落とすと、ぷくぷくとゆっくり静かに封印の水底に沈んでいった。
「これなる返還により、主との縁は解消された。今ここよりは我が封印にて守られる」
ニヤが厳かに告げる。
封印の底を覗くと僕が横たわっていた。
ここに僕が半分以上いるから僕は無事。外に出たら殺される。
でもこの状態のままだと僕は消える。あと3年弱の間には。
一応、その前に僕の全てを封印するという選択肢もある。でもそうすると僕はずっと目覚めないかもしれないし、遠い先に目覚めるかもしれない。もし目覚めたとしても僕の知り合いはもう誰もいないだろう。ナナオさんも、藤友君も、坂崎さんも。
井戸をよじ登って外に出る。足はパンパンだけどなんとか頑張る。上り下りを続けているから最近筋肉自体はついているような気はするんだけどどうなのかな。
藤友君は鳥居のところで待っていてくれた。まだ時間はお昼。お腹がすいた。石段の上からはいつもと変わらない新谷坂町が見えた。よかった。きっともう、大丈夫。みんなの命は守られた。
「藤友君おなかすいた」
「じゃあなんか食いに行くか」
「うん、ラーメン食べたい」
「悪くないな。……それから東矢、妖怪集め手伝ってやる」
「えっほんと!?」
「だからお前も俺を手伝え」
「藤友君を?」
正直僕は足手まといじゃないだろうか。
「俺は夏休みは毎回死にかける。付き合ってやるから付き合え。やばくなってたら助けろ」
「う、うん、僕でよければ」
そして僕は藤友君と夏休みを過ごすことになった。
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