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1人目 超速アイスドール アンザイさん
アンザイさんが初めて夢に現れた。
最後にお見かけしてから、25年以上の時が経ってから。
どうして今になってと、少し懐かしく、当時のことを思い出した。
アンザイさんは新卒で入社したアパレルの会社の、確か4年先輩だった
1浪2留に果てに、仕方なく社会にでることにした僕と、年齢的には一つしか違わない。
けれど、アンザイさんは圧倒的に大人に見えた。
総務に所属していて、その会社では社長秘書も兼ねていたし、エントランスの受付にも座って、完全に会社の顔として働いていた。
「ホレちゃ、ダメだぞ。
変な気を起こして、アンドウさんに手を出したら、お前なんかあっという間に組み伏せられちゃうぞ。
アンドウさんはなあ、合気道の有段者だからな」
配属された部署の先輩に、入社して2日目にはそう注意された。
わざわざそんな風に釘を刺されたので、はっきりと気がついたのだけれど、アンザイさんは完璧に整った顔立ちをしていた。
肌も透明な白さをしていて、実家のピアノの上に置いてあった、まるであのフランス人形そのものだと思った。
会社の女性の制服は、ブルーのボタンダウンシャツに、緑のタータンチェックの巻きスカート。
トラッドテイストのアパレルの会社だったから。
アンザイさんがそんな制服を着て動いていると、その姿はもう、全部が映画のワンシーンのようだった。
歩くときの背筋も、スッと立っていて美しい。
ただ、
そのスピードが、
普通ではなかった。
アンザイさんが特別な、もう一つの点はその速度にあった。
すべての動作が、もの凄く速くて、なんだか3倍速の早送りを見ているような感覚になるのだ。
頭の細胞の動きも同じだった。
対処案件が持ち込まれると、話を3〜4割くらい聞いたかという段階で動き出していた。
問題の全貌など見る前に、先に片付けて消し去ってしまう。
そんな勢いなのだ
そして、どんな案件にも、表情ひとつ変えない。
誰よりも速く、仕事を次々に片付けていく。
僕はといえば、動けないし、手間はかかるし、ミスも多い。
最悪の新卒だっだから、本物の社会人の凄さに圧倒された。
僕の世界に衝撃的に現れた。
“超速のアイスドール”
それがアンザイさんだった
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