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背後からのまさかの声に振り返ると、同期の篠宮壱哉がニヤニヤしながら立っていた。
「な、何してるの、篠宮!今は社内研修でしょ?!」
「え?あんな仕事できない常務の話聞いて何を学べって?俺の方が仕事できるし」
コイツ!!
この、見た目だけは爽やか可愛い系イケメンの篠宮。
入社1年目の時、私と篠宮は同じ営業部に配属され、彼が販売実績という記録を次々と塗り替えて来たのを間近で見てきた。
現在は現場にいた経験を生かし、お互い別のブランド事業部に所属しているが、自信に満ち溢れ、ズケズケと物を言う篠宮の事が昔から苦手!!
よりによって、プライドズタズタの最も人に見られたくない姿を、最悪な男に見られてしまった。
不幸 ON THE 不幸!!
篠宮は笑いをこらえながら、こっちへ歩いて来た。
「俺と違って真面目な及川が研修をサボって、こんな人が来ない屋上にいる理由は、一つしかないかぁ」
「ちょっと私用電話がかかってきて社内では話しにくい事だったから…」
「はいはい。別に言い訳しなくてもいいよ。叫びたくもなるよね〜、樋口さんにフラレたのに、すぐに江名ちゃんと付き合いだして、いつも目の前でイチャイチャされたら」
ぐっ…やっぱりヤなヤツ!!
傷口に塩塗りやがって!
篠宮にここで目撃した事を喋られたら、周囲からはまた「可哀相」と蔑まれ、そして何より聡君と江名には絶対に知られたくない!!
そんな惨めな事だけは嫌!!
「………誰にも言わないで」
「サボってる事?」
「それもそうだけど……ここで見た全ての事を」
「あー、アレね。死ねって叫んでた事ねー」
くっそー!白々しい!
恥ずかしいし、情けないし、もう最悪だ。
「どうしよっかなー」
弱みを握った篠宮は楽しそうで、その甘い見た目からは想像できないくらいイジワルだ。
「じゃあ口止め料として、俺の言う事聞いてくれる?」
…………は?
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