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お互い否定できずに、ただ沈黙だけが流れた。
人は、居心地のいい場所を好む。
人間関係も同じで、居心地の悪い人間とは一緒にはいられなくなる。
冷静に分析すると、また泣けてきたけど、
これが現実なんだ。
「……っ」
俯いて涙を拭う私に、聡君は胸ポケットに入れていたハンカチを取り出し、渡してくれた。
ハンカチを持ってなかった誰かさんとは違って"やっぱりスマートだな"なんて思うと、痛む心が少しだけ丸くなった。
「……聡君」
「なに?」
「浮気してた?」
ハンカチに顔を埋めたまま、問いかける。
聞いても仕方ない事だけど、どうしても確かめておきたかった。
「してないよ。本当に」
顔を上げると、真っ直ぐに私の目を見つめる聡君と目が合う。
この言葉を、信じるか信じないかは私次第。
「そっか…。してなかったんだ」
「うん」
一体いつから、私との時間は偽りだったんたろうと思っていた。
「そっか……良かった」
だけど最後まで、一線は越えなかったのなら、私への義理は残ってたんだ。
そう思っておきたい。
こんなに諦められなくて、まだ泣くくらい悲しいのは、それだけ愛をもらった証なんだって思いたいから。
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