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あの突然の別れから動けないまま、恋心はいつしか"過去に戻りたい"という執着心となっていた。
認めたくないけれど、聡君は私の元へは戻らない。
もう、この気持ちを手放さなきゃ……。
「分かった。もう戻って、聡君」
掠れた声で、終わりを伝えた。
本当は、離れたくなんかないけれど。
私達に、永遠などない。
「ごめんな、菜月」
少しの沈黙の後、聡君が申し訳なさそうに立ち上がる。
フワリと漂ったシトラスの香りが、また私を切なくさせた。
「体調が良くなったら、帰っていいよ。
みんなには言っとくから。後で誰かに荷物を届けてもらうよ」
「うん、そうする。
ハンカチは洗って返すね」
涙に濡れたハンカチを見せると「いつでもいいよ」と言って、シャープな目を更に細めて笑った。
こんな顔も、あんな顔も、好きだったと思うと、またじわじわと目に涙が溜まってくるから俯いてしまった。
金輪際、会えないわけじゃない。
むしろ、毎日会えるのに。
どうして別れって、いくつになってもこんなに辛いのかな。
「じゃあ…行くね」
頭の上から、少し弱々しい声が落ちてきた。
顔を伏せたままコクンと頷くと、ゆっくりと靴音が遠ざかって行く。
悲しくて、苦しくて。
去って行く聡君を見れなかった。
カチャリと扉を開ける音がした時、顔を上げると、何故か聡君が振り返った。
「菜月の事は大事に思ってたよ。
こんな事を言うのはズルいけど、今でも大切だよ」
真剣な顔で言われた。
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