恋人ごっこ

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杏璃ちゃんが私のバッグとショールを持って部屋に来てくれたのは、パーティーがお開きとなった後だった。 だけど、遅いくらいでちょうど良かった。 泣き疲れて抜け殻となった私は、ただぼんやりと夜景を見ていた。 「ごめんなさい、バタバタしてて遅くなって…」 「いいの、いいの。若手は忙しかったよね。ごめんね」 スーツ姿の杏璃ちゃんの顔には、疲労が少し滲んでいて、若手の忙しさを知ってる私は心から申し訳なく思った。 「体調大丈夫ですか?」 「うん、もう良くなった。ありがとう」 バッグからパウダーを取り出し、少しメイクを直した。 思いのほか、アイメイクが崩れてなくて良かった。 「菜月さん、電車で帰れます?タクシー呼びます?」 「大丈夫。これから二次会でしょ?」 私の言葉に杏璃ちゃんが目を丸くする。 「え?菜月さん、二次会行く気ですか?」 「うん。体調良くなったし」 このまま1人になりたくない。 さすがに今日ばかりは、ちょっと無理だ。 「大歓迎ですけど、本当に大丈夫ですか?」 「うん。むしろ重役達に気を使わなかった分、パワーが充電できたかも」 杏璃ちゃんはアハハと笑って「じゃあ、二次会は思いっきり楽しみましょう!」と、ガッツポーズをする。 ホテルスタッフの方に御礼を言って、ロビーに降りて行くと、フィール関係者がいくつもグループを作って、井戸端会議をしていた。 「あ、及川さん!」 同僚達が私を見るなり寄って来る。 「大丈夫だった?」 「ご心配おかけしました。すみません。 休ませてもらったので万全です」 「良かったー」 「二次会も行けますので」 自分からアピールすると、ほろ酔いの同僚達は深く気に止めるでもなく「行こう行こう!」とキャッキャとはしゃぐ。 「どこへ行こうかー?」なんて話しながらゾロゾロと連なり、開放感のあるエントランスホールを抜ける。 外に出ると、思いのほか風が冷たくて、ショールだけじゃなく、ジャケットも持ってくれば良かったと後悔した。
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