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そんな顔でって……。
顔に出さないのは私の得意技なのに、それすらうまく出来てないのかな。
「そんな顔って何よ?失礼なヤツ」
だけど、周りにいる同僚達には気づかれたくないし、篠宮が何を言い出すのか分からなくて笑って誤魔化した。
たぶん、私の気持ちを知ってる篠宮は、聡君と何かあったと気づいているんだろう。
「菜月さん、行きましょう!」
「あぁ…うん!」
ぴょんっと杏璃ちゃんが寄って来たから、篠宮との会話が中断する。
見透かされそうな心を隠せた事に、少しだけホッとしていた。
「篠宮さんも行きますかー?」
「うーん、どうしよっかなー。須田が面倒くさいなー」
「アハハ!須田さんのお世話は、篠宮さんにお任せしますからね!」
流れに乗って、何となく歩き出す。
記憶が無くなるくらい、お酒に溺れられたらいいけれど、このメンバーでは理性が働いてきっとできない。
だから今は、このまま何も考えずに、喧騒の中で孤独と痛みを紛らわせたかった。
三人で他愛もない話をしながら、集団の後方をノロノロと歩く。
会社から二駅離れた、いつもとは違う街の景色は新鮮なはずなのに、何を見ても心は動かない。
「おーい!杏璃ちゃーん!」
前の男性社員達に呼ばれた杏璃ちゃんが「ちょっと行ってきます」と言って私達から離れたから、また篠宮と2人になった。
「何かあったんだろ?」
「……」
隣を歩く篠宮が核心を突いてくる。
篠宮に愚痴を聞いてほしい気持ちと、みんなの前だから傷ついているのを隠さなきゃという気持ちが交差する。
「何もない」
だけど強がりな私は、自分を守る気持ちが勝ってしまい、お得意のポーカーフェイスで答える。
「お前さぁ」
突如、篠宮がグイッと私の腕を引っ張ったから、思わず立ち止まる。
少し不機嫌な声をした彼は
「素直になれば?」
そう言って、呆れた表情をした。
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