恋人ごっこ

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ノイズのように流れていく人の声と、車道を通る車の音。 同僚達の姿は通り過ぎる人達に紛れて見えなくなり、同時に立ち止まったままの私達の姿も、同僚達からは見えなくなっているだろう。 この夜は、まるでまやかし。 「じゃあ、2人で飲みに行く? それとも一緒に帰る?」 「……飲みに行く方に決まってるでしょ」 篠宮がいつもみたいに揶揄うから、私も顔が緩んだ。 「じゃあ、行こうか」と言って、同僚達が向かった方とは違う道を歩きだした篠宮の後を付いて行く。 ここから逃げ出したい。 この暗い闇の中から、私を連れ去ってよ。 気持ちが紛れるのなら、どこだっていい。 「ねえ、どこ行くの?」 「テキトー」 「あんたらしい」 「は?俺ほど真面目な人間いないだろ」 あぁ、いつもの篠宮だ。 こんな言い合いにホッとしてしまって、思わずフフッと笑った。 人は居心地のいい場所を選ぶのなら、私にとって篠宮は楽な存在だ。 何故かは分からないけれど。 "気が合う"とか、"惹かれ合う"とか、理屈じゃないんだろうと思う。 だけど同時に、江名に惹かれて離れて行った聡君の事を思い出すと、また胸が酷く痛んだ。
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