恋人ごっこ

9/15
前へ
/283ページ
次へ
「この失恋を無駄にするか、意味のある事にするかはお前次第だろ」 「どういう事?」 「恋愛でも、仕事でも、何も気付けなくて、変われなかったら同じ事の繰り返し」 淡々と言った篠宮の言葉が突き刺さる。 無駄なんかにしたくない。 ただただそんな覚悟が湧いてくる。 「そうだね…。次はもっと自分の気持ちを伝えないとね。例えそれが面倒くさくても」 ぶつかり合う事は、無駄な感情の消費だと思っていたけど、一体何が無駄で、何が意味があるのかなんて分からないよね。 心なんて見えないんだから、言葉にしないと伝わらない。 プライドが高くて、臆病な私。 ここまでガツンと衝撃を受けないと、気付けない自分だったんだ…。 「二度目の失恋だけど、今度はちゃんと前を向ける気がする」 私の落ち度や、聡君の言葉を受け止める事は出来そう。 だからと言って、悲しくないわけではない。 うっと、また涙が浮かんでくる。 「ごめん。自分でも呆れるくらい、涙の生産量すごいわ」 「悲しい時は、悲しんだらいいんだよ」 篠宮が何でもないように言う。 そんな事を言われたら、涙止まらないよ? ありのままの気持ちを止めなくていいって言われたら、安心しちゃうよね。 さっき見た聡君と江名の姿や、楽しかった思い出や、別れの瞬間など、ちぐはぐに浮かんでは消えていく。 悲しくて、当たり前か……。 ほんと篠宮って、ちゃんと私の心に届くような言葉を言うよね。 甘えたくなってしまう。 って、甘えてるけど。 でも、それでいいんだ。 「篠宮」 「何?」 「面白い事話して」 「無茶振りすんな」 篠宮が顔をしかめたから、思わず笑ってしまった。 「何も考えずに、笑って、酔っぱらいたい」 「いーね、それ。俺もしたい」 「じゃあ、飲もう」 グラスを差し出すと、篠宮もカチンとグラスを合わせた。 「めちゃくちゃ酔っていい?」 「いいけど、襲われるかもよ?」 「あんたは私を襲わないでしょ」 いつもの冗談を笑い飛ばすと、篠宮はイエスともノーとも言わずに笑った。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4317人が本棚に入れています
本棚に追加