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「この失恋を無駄にするか、意味のある事にするかはお前次第だろ」
「どういう事?」
「恋愛でも、仕事でも、何も気付けなくて、変われなかったら同じ事の繰り返し」
淡々と言った篠宮の言葉が突き刺さる。
無駄なんかにしたくない。
ただただそんな覚悟が湧いてくる。
「そうだね…。次はもっと自分の気持ちを伝えないとね。例えそれが面倒くさくても」
ぶつかり合う事は、無駄な感情の消費だと思っていたけど、一体何が無駄で、何が意味があるのかなんて分からないよね。
心なんて見えないんだから、言葉にしないと伝わらない。
プライドが高くて、臆病な私。
ここまでガツンと衝撃を受けないと、気付けない自分だったんだ…。
「二度目の失恋だけど、今度はちゃんと前を向ける気がする」
私の落ち度や、聡君の言葉を受け止める事は出来そう。
だからと言って、悲しくないわけではない。
うっと、また涙が浮かんでくる。
「ごめん。自分でも呆れるくらい、涙の生産量すごいわ」
「悲しい時は、悲しんだらいいんだよ」
篠宮が何でもないように言う。
そんな事を言われたら、涙止まらないよ?
ありのままの気持ちを止めなくていいって言われたら、安心しちゃうよね。
さっき見た聡君と江名の姿や、楽しかった思い出や、別れの瞬間など、ちぐはぐに浮かんでは消えていく。
悲しくて、当たり前か……。
ほんと篠宮って、ちゃんと私の心に届くような言葉を言うよね。
甘えたくなってしまう。
って、甘えてるけど。
でも、それでいいんだ。
「篠宮」
「何?」
「面白い事話して」
「無茶振りすんな」
篠宮が顔をしかめたから、思わず笑ってしまった。
「何も考えずに、笑って、酔っぱらいたい」
「いーね、それ。俺もしたい」
「じゃあ、飲もう」
グラスを差し出すと、篠宮もカチンとグラスを合わせた。
「めちゃくちゃ酔っていい?」
「いいけど、襲われるかもよ?」
「あんたは私を襲わないでしょ」
いつもの冗談を笑い飛ばすと、篠宮はイエスともノーとも言わずに笑った。
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