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くだらない事で笑って、ワインを飲んで。
ふと、聡君の事を思い出しては切なくなって。
今日の篠宮と過ごす時間は、楽しさと寂しさがごちゃまぜになった、やるせない夜だった。
「酔っ払ったー!!」
3時間ほどバーで飲んで外に出ると、冷たい風が気持ち良かった。
お酒のせいで体温が上昇しているのか、感覚が麻痺しているのか。
自分でもよく分からないテンションで、フワフワしている。
「ねぇ、公園の方行こうよ」
「公園?」
「海が見たいなー」
まだ帰りたくなくて、篠宮にお願いをすると「お前、かなり酔ってるだろ」と呆れた顔をしながらも、海浜公園の方へと歩いて行く。
「酔っぱらおうって言ったじゃん」
「知ってる?片方が酔ってると、片方はしっかりしなきゃと思って、理性を失えないんですー」
「えー、つまんないね。もう1軒行く?」
「はいはい、早く来いよ」
酔っぱらいの戯言を軽く交わされて、階段を降りて行く。
夜の海浜公園はカップルがちらほらいて、なんとなく人気の無い方へと2人で歩く。
一気に開けた目の前に映るのは、きらびやかな夜景と海。
キラキラとした灯りは海面で揺れて、小さく響くさざ波の音が心地いい。
「不幸になってしまえーーっ!」
「おい、面倒くせぇな!」
突如、海に向かって叫ぶ私を、フェンスから引き離す篠宮。
「別れた相手の幸せを願うほど、できた人間なんかじゃないのよー!!」
「わかった、わかった」
フラフラする私の腕を掴んで、真っ直ぐ歩くよう軌道修正する。
「よくドラマや小説では"幸せを願うよ"なんて言ってるけど、どうしたらそんな風に思えるの?みんな悟りを拓いた高僧なの?」
「そんなわけねーだろ」
「だよね…醜いわ、私…」
「というか、お前の方が普通じゃないの?そんなもんだろ。人なんて」
篠宮がサラッと言った。
あぁ、そっか…。
私は篠宮のこういう所が好きなんだ。
勝手に背負いすぎる重荷を降ろさせてくれるというか…。
風が吹くみたいに、押し付けがましくない慰めをサラリと言って「それでもいいんだ」って思わせてくれる。
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