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記憶なんて消せないし、時間が経てば薄れていく事だって分かってる。
だけど、そんな結果論の慰めなんていらない。
今、苦しいの。
「……壱哉」
名前を呼ぶと、篠宮が真顔になった。
お互いの視線が絡まったまま、解けない。
こんなに酔っ払ってても、やっぱり思い出す。
もう、疲れた。
この淋しさとか、虚しさとか、感情の波に抗うことに疲れた。
1人で過ごす夜に怯えているけれど、越えなきゃいけない事だって分かってる。
だから今だけは……
心のままになっていい?
「……少しだけ、甘えさせて」
お酒の勢いにまかせて、篠宮の胸に寄りかかった。
聡君とは違う匂いが、また切なくさせる。
もう、散々甘えてるんだけどな。
だけど今日だけは、もう少し一緒にいて。
ただの同僚とか、これからの関係なんてどうでもよくて。
大きく開いたままの傷を、誰かに塞いでほしかった。
篠宮の腕が背中に回されて、ぎゅっと体が密着する。
抱きしめられた腕の中は温かくて、篠宮の鼓動が伝わってきた。
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