恋人ごっこ

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こんな風に聡君の腕に抱かれる事はない切なさと、ボロボロの私を包み込んでくれる安心感。 2つの相反する気持ちを抱えながら、篠宮の腕の中に包まれていると、泣けてくる。 ─時にはさ、癒やしてくれる人が必要よね。 関谷さんに言われた言葉が浮かぶ。 ……本当に。 篠宮がいてくれて良かった。 あのまま同僚達と飲みに行ってても、きっと今頃自暴自棄になっていただけだったと思う。 ヘルプを出せて良かった……。 「…ごめん。ありがと」 グズっと鼻を啜りながら、篠宮の胸に両手をついて体を離す。 はぁ…。 お酒の勢いに任せて何やってるんだ、私。 少し冷静さを取り戻して顔を上げると、憂いな表情をした篠宮と目が合った。 あ………。 私の頬に、手が伸びてくる。 引き込まれるように、目が離せない。 その瞬間。 ゆっくりと顔が近づき、唇が触れた。 アルコールの匂いが、強烈な媚薬のようでクラクラさせる。 頬に添えられていた右手が、耳元へと移動して、ギュッと後頭部を抑えられた。 なんとなく、分かってたじゃん。 こういう雰囲気になるの。 私達は、何にも知らない子供じゃない。 突き放す事だって出来るのに、キスを受け入れている。
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