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冷たい風が、私達の間を通り抜けて行く。
篠宮の手から力が抜けて、閉じていた目を開けた。
なんだろう……
この気持ち。
至近距離で見つめ合ったまま、気持ちの正確が見つけられず言葉にできない。
「キスしちゃったね」
篠宮が笑う。
余裕なヤツ。
「言ったでしょ?
恋人ごっこは、ちゃんとできるって」
だから私も、酔っ払っている振りをしてごまかした。
ドキドキと音をたてる心臓の音が聞こえてしまいそうで、篠宮に掛けてもらったジャケットを胸の前でギュッと握った。
「ねぇー、早く来てよー」
遠くから人の声が聞こえてきた瞬間、まるで夢物語から覚めたかのように、現実に戻される。
「帰ろうか」
フッと笑って、歩き出す篠宮。
私も、笑って頷く。
「ちゃんと歩ける?」
「歩けるよ!」
「酔っぱらいの言う事って、たいてい嘘だよな」
まるで何も無かったかのように、いつも通りの会話。
まだ早いままの胸の鼓動を隠したまま、大人って、経験値が重なって「何もないふり」がうまくなってしまうと思った。
まだ聡君を好きな私と、誰も好きじゃない篠宮。
冗談か本気か分からないキス。
ただ雰囲気にのまれて、何の意味も持たないはずのキスに、何故か心がザワついた。
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