大人だから

12/18

4314人が本棚に入れています
本棚に追加
/283ページ
篠宮は私の隣に並んで、同じように柵に持たれかけた。 チラリと横目で見ると、空を見上げて「はー」と息を吐いている。 ………コイツがここに何をしに来たのかは分からないけれど、もしかしたら息抜きに来たのかもしれないな。 こんなチャランポランだけど、仕事に関してはものすごい努力家だという事を、私は秘かに知っている。 「あー、そういや。新商品のイメージムービー見たよ。カッコよかったじゃん」 ………おや? 篠宮からの、意外な言葉に目を丸くする。 私と篠宮は、それぞれ別のブランドを手がけている。 私の方は『GENIC(ジェニック)』という20代〜30代がターゲット層の『自分らしい美しさ』をコンセプトとした、高いファッション性が強みのコスメブランド。 一方篠宮は、『La nature(ラ ナテュール)』という『自然体』がコンセプトの、スキンケアブランド。 GENICには「メイクで自分らしさを輝かす」という意味が込められていて、トレンドはもちろん、斬新なカラーバリエーションが豊富。 GENICのコスメを手に取るお客様が、オシャレを楽しんだり、メイクを通じて明るく、幸せな気持ちになって欲しい。 コンセプトは毎回違うものの、根底にはいつもこんな思いを込めて、沢山の人がGENICに出会ってもらえるようプロモーションをするのが、私の仕事だ。 「ほんと?!どこが良かった?」 「モノクロ映像に、メイク部分だけカラーつけてるのは、GENICらしいカラフルさを引き立ててたと思う。アイシャドウやリップも随所に置かれてて、興味を惹かれる見せ方だったよ」 え、嬉しい。 社内でも一目置かれる篠宮がこんな事言ってくれるなんて。 「でも1番良かったのは…」 「どこっ?!」 「モデルのジェニーがリップを塗るシーンがセクシーすぎた所だなー。いいよね、ジェニー」 「……まさかのそこ?」 眉間に皺を寄せて、背の高い彼を見上げると、からかい甲斐があったのかクッと笑いを押し殺している。 「及川がつけてる口紅、新作ラインだろ?」 「え、そうだけど」 「6番?」 「よくわかるわね!怖っ!」 「出来る男は違うんだよ」 アハハと声を出して笑ったかと思うと 「いいな、その色。似合ってる」 風が吹くように、サラッと言った。 私を見下ろすその顔が、いつもとは違う男の顔に見えて、不覚にもドキッとしてしまった。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4314人が本棚に入れています
本棚に追加