4314人が本棚に入れています
本棚に追加
/283ページ
篠宮は私の隣に並んで、同じように柵に持たれかけた。
チラリと横目で見ると、空を見上げて「はー」と息を吐いている。
………コイツがここに何をしに来たのかは分からないけれど、もしかしたら息抜きに来たのかもしれないな。
こんなチャランポランだけど、仕事に関してはものすごい努力家だという事を、私は秘かに知っている。
「あー、そういや。新商品のイメージムービー見たよ。カッコよかったじゃん」
………おや?
篠宮からの、意外な言葉に目を丸くする。
私と篠宮は、それぞれ別のブランドを手がけている。
私の方は『GENIC』という20代〜30代がターゲット層の『自分らしい美しさ』をコンセプトとした、高いファッション性が強みのコスメブランド。
一方篠宮は、『La nature』という『自然体』がコンセプトの、スキンケアブランド。
GENICには「メイクで自分らしさを輝かす」という意味が込められていて、トレンドはもちろん、斬新なカラーバリエーションが豊富。
GENICのコスメを手に取るお客様が、オシャレを楽しんだり、メイクを通じて明るく、幸せな気持ちになって欲しい。
コンセプトは毎回違うものの、根底にはいつもこんな思いを込めて、沢山の人がGENICに出会ってもらえるようプロモーションをするのが、私の仕事だ。
「ほんと?!どこが良かった?」
「モノクロ映像に、メイク部分だけカラーつけてるのは、GENICらしいカラフルさを引き立ててたと思う。アイシャドウやリップも随所に置かれてて、興味を惹かれる見せ方だったよ」
え、嬉しい。
社内でも一目置かれる篠宮がこんな事言ってくれるなんて。
「でも1番良かったのは…」
「どこっ?!」
「モデルのジェニーがリップを塗るシーンがセクシーすぎた所だなー。いいよね、ジェニー」
「……まさかのそこ?」
眉間に皺を寄せて、背の高い彼を見上げると、からかい甲斐があったのかクッと笑いを押し殺している。
「及川がつけてる口紅、新作ラインだろ?」
「え、そうだけど」
「6番?」
「よくわかるわね!怖っ!」
「出来る男は違うんだよ」
アハハと声を出して笑ったかと思うと
「いいな、その色。似合ってる」
風が吹くように、サラッと言った。
私を見下ろすその顔が、いつもとは違う男の顔に見えて、不覚にもドキッとしてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!