胸が痛んでこそ恋

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『明日、飲みに行かない?』 『明日はヒロと約束してるのよ。あさっては?』 文香にメッセージを送ると、汗を撒き散らしながら手を合わせるウサギのスタンプ付きで「ごめん」と返信があった。 『じゃあ、明日ランチ行かない?』 本当は飲みに行きたかったけど、彼氏との約束があるのなら仕方ない。 だけど、文香に会って早急に話したい事がある私は、引き下がれない。 『いいよー!社食行く?』 『外に行こう!』 『了解〜』 約束を取り付け、ふう、と息を一つ吐くと、ベッドに寝転んだままスマホを手放した。 昨日、聡君には玉砕して、篠宮とはキスをして……。 ううっ…! 思い出すとむず痒くなって、ゴロンと寝返りを打った。 あれから、篠宮とは普通に駅で別れた。 呆気ないほど、普通に。 酔っ払ってた私は「キスは幻覚だったのかな?」と思うくらい、普段通りに手を振った。 だけどそれは、私達の間に"同僚"という、簡単には越えてはいけないような壁があるから。 いや、雰囲気に流されて越えちゃったんだけど、今なら"無かった事"に出来る。 今後仕事や同期会など、気まずくなると面倒くさいという防衛本能が働いてしまう。 だから篠宮がブレーキを踏んだのに対して、私も同じように"これ以上進んではいけない"と立ち止まった。 好きなら、突き進んでいいと思う。 だけど私達は、突き進むだけの気持ちもなければ、気まずくなるリスクを犯してまで関係を壊す覚悟も持ち合わせてないから、ストップをかけたんだと思う。
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